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Thunderbolt Fantasyシリーズは日本と台湾の共同制作による人形劇です。
その題名のとおり古の中国を舞台としたファンタジーという位置づけになっています。
この【Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌】の主人公はメインストーリーのそれとは異なり、吟遊詩人のロウ・フヨウです。
彼を巡る様々な人物が彼に影響を与え、やがてフヨウを庇護される少年から自立した青年へと成長させる物語として展開されます。
人形劇というスタイルをとりながら、単なる娯楽活劇ではなく人の成長の本質にも切り込んだ傑作です。
フヨウに影響を与えた者
フヨウの人間形成に大きな影響を与えたのは3人の女性と1人の男性です。
3人の女性からはそれぞれ異なった形の愛情を受けることになるのですが、どれが欠けてもフヨウという人間は完成しなかったのでしょう。
フヨウという人間形成に影響を与えた4人について考察してみます。
母
この母は一見無慈悲なスパルタ教育ママに見えます。彼女はフヨウの天賦の才能を見抜き幼少期から天才教育を施しました。
その姿勢は愛の鞭などとは到底思えないほど徹底したものだったのです。
彼女が見抜いていたのは単なるフヨウの音楽的な天才ではなく、彼が持つ魔性ともいえる宿命だったのではないでしょうか。
人との関わりを断とうとするフヨウにムツは母の真の意図を伝えるではありませんか。
そうです。母の教育は抜き身刀のようなフヨウの魔性を封じ込める鞘を与えることだったのです。
しかし、一方では母の教えはフヨウを一種のマザコンにしてしまった面が否定できません。
スパルタ教育という形をとった、その強烈な母の愛情に精神的に支配されたフヨウが残されてしまったのです。
ムツ
ムツの音楽はフヨウに1人の人間として自立する切っ掛けを与えました。
母のように上から押さえ込まれるのではなく、並列な関係の中で自分の音楽性と共感できる存在があることをフヨウは知るのです。
ムツはまたフヨウにショウという正義感溢れる傑物との出会いを橋渡しする役割をも担うことになります。
人は幼少期大半の人格を母親から受け継ぎますが、青年期に母性愛とは異なる異性愛を知ることでその人格を再構築していくのです。
フヨウは誰しも青年期に経験する新たな愛の形をムツから受け取ったといえます。
皇女
皇女もまた純粋にフヨウを愛していたのでしょう。
彼女は決してフヨウの音楽性だけのために彼をかごの鳥にしようとしたのではありません。
そこには多くの文芸作品も描いているような歪んだ形の、ある意味では純粋な愛があります。
「失うくらいなら殺してしまいたい。」と思うような愛情で、その一途な愛の姿はいじらしいほどです。
女の浅はかさといってしまえばそれまでですが、国の防衛の根幹を揺るがしてまでフヨウを求めようとするではありませんか。
フヨウは危なかったのです。あそこでムツやショウに出会わなければ、そのまま皇女の歪んだ愛の巣で生涯を終えたかもしれません。
ショウ
青年は成熟した男との出会いによって自らの男を顕在化することがあります。
フヨウも好漢ショウを目の当たりにすることによって自ら一人の男として自立する方向性を見出したのです。