高級車リンカーンのピックアップトラックを乗りこなすさっそうとした老人に変身し、組織の若者たちとコミュニケーションをとるようになります。
居場所を失ったアールが手にしたい新しい居場所。そんな思いもあったのかもしれません。
一回目の運びの後は、まだ引き返せる段階でした。しかしアールは自ら回を重ねることを選択し、引き返せないところまで来てしまうのです。
妻や娘の愛が取り戻せるかもという思い
お金を得ることによって孫に援助できるようにもなり、そうしていくうちに関係が良くなって妻や娘との絆が取り戻せると感じたのかもしれません。
孫娘の結婚パーティや卒業式などで何度か妻や娘と顔を合わせるシーンはありましたが、とても和解は難しいという雰囲気でした。
過去の行いは取り戻せません。
けれどしっかり働いて経済的に援助ができたり、またデイリリーを栽培して評価されればもしかしたら見直してもらえるかも、と思った可能性もあります。
90歳になっても人間はまだ学べる
アールは家族をないがしろにして仕事一筋で生きてきました。
これまでの仕事は”運び屋”とは違って命がかかっているものではありませんでしたが、運び屋の仕事はそうではありません。
ましてやアールを重宝していたボス、ラトンが粛清され締め付けが厳しくなり、命の危険を感じ始めていた矢先の妻の危篤の知らせ。
おそらくアールは人生で初めて何よりも家族を優先し、愛する妻のもとに駆け付けました。
そこには運び屋の仕事をしていくうちにアールが変化したことが見受けられます。
人生のほとんどを間違って過ごしてきたと晩年になって悟るアール。
90歳になって正しい愛の表現の仕方を、人間の在り方を学ぶことができたのです。
妻の死までにそれを学んだアールは、最愛の妻の死に寄り添います。
自分の命がかかっている仕事を投げ出して、です。以前のアールでは考えられないことだったでしょう。
裁判での発言は何を意味するか
アールが放った有罪だ、の一言で裁判は結審します。
この一言は”運び屋”としての罪だけではなく、アールがこれまで家族に向き合ってこなかったこと、その罪に対しての言葉なのではないでしょうか。
刑務所でアールの人生を彩ったデイリリーを育てるアールの姿が映し出されます。
誰に評価されるためでもなく、自分のためにデイリリーを栽培します。
刑務所でデイリリーを育てるアールの姿が体現するものとは
口が悪く、不器用で愛をうまく表現できないアール。
ですが人生を通してデイリリーひとつを愛し続けてきた一途さを通して、家族への強い愛が透けて見えます。
人生の終末近くで、しかも罪人になって家族との絆を取り戻したアール。
彼が愛するデイリリーには「心を開く」「苦しみからの解放」などという花言葉があります。
法律に対する罪を刑務所で償いながら、家族に対する罪をデイリリーを通して昇華させていく。
そんな意味がこのラストシーンには込められているのではないでしょうか。