海辺を自転車で走ったり夕日を眺めたり、ある意味普通の青春を過ごしたいという思いから、病気を隠していました。
また、彼女が余命幾ばくもない状態で公生に「ピアノを弾いて」と頼んだら公生はどうしたでしょうか。
最期になるのなら、と意を決して演奏したはずです。
しかし、かをりが望んだ公生の演奏は公生自身が自らのトラウマから抜け出し、公生自身の望みをきっかけとした演奏なのです。
この2つの理由から、かをりは病気を隠していたのだと推測できます。
嘘その2:渡が好き
渡が好きだから公生を通して渡を紹介して欲しい。かをりは椿にそうお願いしました。
しかしかをりの心は、渡ではなく公生を向いていました。これは最期の手紙で明かされます。
公生の演奏を初めて目の辺りにした5歳の頃からずっと憧れの存在だったことも書かれていました。
その頃はピアノを演奏していたかをりが、公生に伴奏してもらいたいがためにバイオリンを志したほど強烈な憧れです。
しかしそれを最期まで隠し通したのはなぜなのでしょうか。
かをりは椿の心が公生に向かっていることに気づいていました。
弟のような存在だと言ってはいるものの、どう見ても椿は公生を特別視しています。
もしかをりが公生への気持ちを公にしてしまったらどうなるでしょうか。
椿との間に亀裂が入るでしょう。もし公生が自分を選んだら、椿は深く傷つくはずです。
友人関係を壊してしまいます。
あと少ししか生きられない自分が、まだこれから先も新しい春を迎える大切な人たちを傷つけて良いはずがない。
そんな思いから、かをりは自分の恋心を隠し通したのです。
かをりの生涯を輝かせたのは公生だった
5歳での運命的な出会をしてから命を失うまで、公生はかをりの憧れでした。
同じ学校に通っているのだと知っても声を掛けられなかったかをりを後押ししてくれた存在は、皮肉にも不治の病です。
先が長くないことを知ったかをりは、公生と一緒に演奏したいという夢を叶えるために生まれ変わります。
髪型を変え、メガネをコンタクトに変え、明るく溌剌とした少女になったかをりは自信と希望に満ちあふれて輝いていました。
1年にも満たない短い青春を駆け抜けたかをりは、彼女の生涯で最も明るく輝いていたことでしょう。
青春ラブロマンスでも、お涙頂戴の悲劇でもない深さがある映画
舞台は海の見える高校で、登場人物は天才ピアニストとバイオリニスト、サッカー部のエースとスポーツ万能女子。
青春ラブロマンスにピッタリなシチュエーションで展開された『四月は君の嘘』。
しかし、ラブロマンスで終わらない深さがあります。
天才、トラウマ、不治の病といった「普通」ではない状況のオンパレード。
それでも同世代の若者や青春を過ごしてきた人々を引き込んで共感させる見事な作品です。
ラストシーンは感涙必至ですが、ただの泣かせ映画でもありません。
有馬公生くん、今君の周りは何色ですか?私の人生はね、君のおかげでとてもカラフルだったよ。
引用:四月は君の嘘/配給:東宝
かをりの死後、再び春を迎えた3人の目の前には桜の木がありました。
過去にとらわれて色のない世界を生きていた公生にも、美しい桃色が見えたことでしょう。
同様に、病魔に侵されていることを知ったかをりもまた、モノクロの世界を生きていたのかもしれません。
公生と時間を過ごす中で、ただ終わりに向かうだけでなく自身の人生に色を添えながら旅立つことができたのです。
ラストは笑顔で送り出してあげたくなる。そんな『四月は君の嘘』でした。