雪野は限られた空間でどんどん自分の内側に閉じ込められていった女性です。
一方孝雄は自分のいる学校という世界からはやく抜け出して外に出たいと思っています。
きみは違う世界ばっかり見てたのね
引用:言の葉の庭/配給会社:東宝映像事業部
劇中で雪野が孝雄に言うセリフが印象的です。
周囲に巻き込まれ翻弄される雪野からすると、孝雄はとても眩しかったことでしょう。
少しづつ雪野は孝雄に惹かれていきます。
雪野の気持ちに気が付いた孝雄
孝雄は雪野に下記の万葉集の歌を返します。
鳴る神の、少し響(とよ)みて、降らずとも、我は留まらむ、妹(いも)し留(とど)めば
引用:言の葉の庭/配給会社:東宝映像事業部
雷が少し響いて、曇りそして雨が降らなくても君が願うなら私はここにいる……。
雪野が詠んだ歌の意味を孝雄が知った時、孝雄は彼女の本心に気が付いたはずです。
だからこそ、自分の気持ちを歌で返したのでしょう。
「嫌い」という言葉が導いたもの
階段での瞬間がハッピーエンドとバッドエンドへの分岐でした。
孝雄の「嫌い」という言葉は二人の関係を変化させる鍵といえるでしょう。
雪野にぶつけた思い
あなたの事、嫌いです。
あんたが教師だって知ってたら、靴の事なんか喋らなかった。
引用:言の葉の庭/配給会社:東宝映像事業部
孝雄の言葉には深い意味が隠れています。
教師だって知らなかったというのは、実際の教師としての存在ではありません。
雪野が心に張った「教師と生徒」としてのバリケードのことです。
あんたは最初から分かってたんだ!
あんたは一生ずっとそうやって、大事なことは絶対に言わない
引用:言の葉の庭/配給会社:東宝映像事業部
孝雄は雪野が自分を好きだということを知っていたのでしょう。
好きなのに、気持ちに蓋をして孝雄のことを遠ざけようとする……。
どうして自分を受け入れてくれないのだろうという不満、それを孝雄は雪野にぶつけたのです。
しかしここで「嫌い」という孝雄の不器用な言葉が、雪野の同じような不器用さにまっすぐ届きました。
一見マイナスに見える言葉が、二人をハッピーエンドの可能性へと導いたのです。
もしあそこで今までどおり気持ちを押し隠していたら、つながりは途絶えていたはずです。
しかし、気持ちをぶつけあったことでたとえ離れてもほどけない強い絆を二人は結びました。
二人は子ども時代に別れを告げ、大人の世界へと歩み出していくことができたのでした。
小説に描かれた詳細
劇中では描かれていない詳細な描写は、新海監督自身の手によって執筆された『小説 言の葉の庭』に記されていました。
孝雄が「嫌い」と叫んだのは、雪野がそう望むからです。
しかし孝雄の気持ちはどんどん高ぶってしまいました。
感情のすべてが、しだいに怒りに変わっていく。
引用:新海誠『小説 言の葉の庭』(汐文社発行)
雪野のことを諦めなければいけない絶望も相まって気持ちが爆発したのではないでしょうか。