セリフのみならず画像からも情報を提供しようとするマッケイの手腕が光ります。
ブラッド・ピットの存在
「プランB」が加わった意味
マッケイ+「プランB」=ブラッド・ピット+クリスチャン・ベイルという座組は、マッケイ監督の前作「マネー・ショート」と同じ。
ここでも金融界という難しい問題を本作と同様の手法で見事に描き切り、マッケイはアカデミー賞脚本賞を獲得しています。
ブラッド・ピットはハリウッドでも「アンチ共和党」として知られ、彼の率いるプロダクション「プランB」は、その手の映画に数多くコミットしています。
本作はマッケイ自身が公に認めるように、ハリウッド・リベラルによる共和党を糾弾するための風刺映画。
ブラッド・ピットが資金面でバックアップしていることは、この映画の背後にあるものを雄弁に物語っています。
一方で、「SNL」の盟友で、これまで数々のコメディ映画を作ってきたウィル・フェレルもプロデューサーに名を連ねていています。
資金面で本作を支えながら「SNL」精神のバックボーンになっているという演出面での構図が明確に理解出来るでしょう。
クリスチャン・ベイルという俳優
ひたすらストイック
本作の見所の一つであるオスカーも獲ったクリスチャン・ベイルの変身ぶり。
彼は映画のたびに太ったり痩せたりするので有名で、役のために歯を抜くことも厭いません。
流石に体重の極端な増減は心臓に悪く、家族からの要請もあり、今後はそうしたことはやらないとインタビューで答えています。
目つきや次第に悪人面になっていく表情などを含めた彼の怪演はさすがオスカー主演男優賞候補になっただけの迫力はあります。
スティーブ・カレルのラムズフェルド、サム・ロックウェルの子ブッシュ、タイラー・ペリーのコリン・パウエルなどのそっくりさんぶりも見事なものです。
しかし、そっくりなのは面白いですが、それぞれがきちんとした演技が出来る名優たち。
マッケイの脚本の出来の良さも相まって、そっくりショーだけでなく、描かれる世界の真実味を倍加する意味で大変優れた技術といえるでしょう。
エンドロール後の一幕の主張の重さ
チェイニーの開き直りと最後の一撃
映画本編のラストはチェイニーがテレビカメラに向かうところ。
自分は国民に選ばれたのであって、国民の希望することをやっただけ、とホンモノのフッテージの中で開き直るところで終わります。
しかし、マッケイの爆弾はエンドロール後に隠されていました。
本編でも折に触れて登場してきた市民意識調査のためのグループインタビューのシーンが現れます。
一人の男が「結局、これ(本作)ってリベラルの宣伝じゃないか」と発言。民主党支持者との口論が始まります。
「オレンジ顔(トランプのこと)が選ばれてこの国はどんどん悪くなっていく!」との発言も飛び出します。これはマッケイの心の叫びでしょう。
それはそれで熱心な討論なのです(国民の分断化も象徴しています)。
しかし、ちょっと離れていたところにいた二人の若い女性は、今度の『ワイルド・スピード』、チョー楽しみ!、とまるで無関心です。
そこで映画は終わります。
結局彼女らのような無関心層が、チェイニーやトランプの登場を許し、さらに彼らに開き直りの機会を与えてしまっているのだ、ということをマッケイは警告しています。
チェイニーを斬ってアメリカの闇をあぶり出してみせ、返す刀で国民もバッサリ。
ここまで観終えると、本作は政治ドラマ、人間ドラマ、コメディであり、土壇場で意味深長なホラーにすらなったのではないか、と思えてくるのです。