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「タクシードライバー」は、言わずと知れたロバート・デ・ニーロ主演のマーティン・スコセッシ監督の1976年の大出世作です。
いわゆるアメリカンニューシネマの最後尾に位置する傑作、と紹介され、この作品について論じた文章も数多いです。
本稿では、この作品のどこが画期的だったのか?ベトナム戦争が終結したばかりだった当時の世相についても解説していきます。
武装したトラヴィスが自室の鏡の前で呟いた内容とは?
「俺に用か?/You talking to me?」の意味って?
トラヴィスが密売人から購入した銃で武装し「俺に用か?/You talking to me?」と鏡に向かって独白を繰り返す場面がありました。
これはスコセッシとデ・ニーロが撮影中にアドリブでその場で付け加えた場面でした。
そのシンプルなセリフの裏には、どんな意図が隠されていたのでしょう?
トラヴィスは12時間のタクシードライバーの仕事から戻っても眠れず、悶々とした気持ちを日常の中では解放できずにいました。
職場の同僚や先輩に愚痴ったり、映画を朝まで観たり、部屋でテレビを眺めたり、物憂げな日記を書くぐらいしかできないでいました。
彼が撃ちたかったもの
ある日トラヴィスは、ついに具体的な行動を思いつきます。
トラヴィスの言葉を借りると「鈍った肉体を鍛え直す」ためにフィジカルトレーニングを始めます。
そして密売人から数種類の銃を手に入れました。目的はパランタイン候補の暗殺でしたが、明らかに彼の中で変化が起こっていました。
彼が殺したかったのは、他でもない日常の中で何も変えられないでいる、それまでの自分自身でした。
それが、この一言で絶妙に示唆されています。
ジャクソン・ブラウンの曲が使われた理由
ジャクソン・ブラウンの「レイト・フォー・ザ・スカイ」
この曲は、カリフォルニア出身のシンガーソングライターのジャクソン・ブラウンが1973年にリリースした3rdアルバムの表題曲でした。
アルバム自体も優れた出来で、全米14位にチャートインし、ジャクソン・ブラウンがブレイクするきっかけになった作品です。
トラヴィスが近所の食料品店で強盗に出くわし、護身のため、初めて銃で人を撃ってしまった深夜のこと。
店主の機転で、無事逃走し自室で音楽番組を観ていた場面で流れていたのが、この曲でした。
デ・ニーロとハーヴェイ・カイテルも出演している「ミーン・ストリート」(1973年)や「グッドフェローズ」(1989年)等。
後年の作品では、並のDJなら裸足で逃げ出す巧みな選曲でロックマニアとしての本領を見事に発揮したスコセッシ。
本作ではこの曲一択で、絶妙なタイミングで使っています。