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『羊たちの沈黙』といえば、レクター博士を思い浮かべる人が多いでしょう。
人肉を食らうカニバリスト・食人鬼ハンニバル・レクターは本作を機に大ブレークし、2007年まで4作ものシリーズ映画作品になりました。
猟奇殺人犯のレクター博士がなぜここまで世界の人気者になったのか。
その理由はシリーズ一作目に当たる本作『羊たちの沈黙』にすべて詰まっているともいえます。
また本作は1992年度のアカデミー賞において主要5部門を独占しました。特に主演男優と主演女優のダブル受賞は後世に残る偉業になりました。
6年もの執筆期間を取ったトマス・ハリスの原作をベースにしていることからも、本作は極めて重厚な作品になっています。
今回は、そんな歴史的な名作を深く掘り下げてゆきます。
レクター博士はなぜクラリスを気に入ったのか
精神病院での面会人に心を許さないレクター博士ですが、クラリスのことは一発で気に入ります。それはなぜだったのでしょうか。
単に美人だったから
アンソニー・ホプキンス演じるレクター博士とジョディ・フォスター演じるFBIアカデミーの実習生・クラリスとの関係性が映画の中核にあります。
クラリスは上司・クロフォードの命により、バッファロー・ビル連続殺人事件解決のヒントを得るためにレクター博士が収監されている精神病院に行きます。
殺人鬼ながらレクターは元精神科医でもあり極めて知的で気難しい性格の持ち主です。
そのため訪問する精神科医に心を許したことはありません。しかしクラリスはすぐにレクター博士のお気に入りになります。
2人が会う前に精神病院の院長・チルトンは「君は美人なので上手くゆくだろう」とクラリスに言います。
クラリスの上司もチルトンと同様の本音を彼女にほのめかします。
若く美しいFBI研修生は、レクターに手を焼いた精神科医たちの最終兵器だったといえるでしょう。
クラリスの率直な性格
しかしレクター博士の固く閉ざされた心を開いたのは、第一にクラリスの率直さにあります。
彼女はレクターの独房に行く前に別の収監者から汚い言葉を投げかけられます。レクターは追い討ちをかけるように彼女に「何と言われたのか」と問います。
しかしクラリスは「お前のあそこが臭うと言われた」と即答します。いくらFBIでも女性には言いにくい言葉を、そう平然と口にしたのです。
そこでレクターは彼女を気に入りました。「君はフランクだ」と喜びます。
レクターは精神科医であり、人間に対する興味が強い人物です。収監以降、彼は人と個人的な関係が結べず、寂しかったのかもしれません。
そんなときに、会ってすぐに心を開いてくれる美人FBI実習生が現れたのです。それを快く思わないはずはありません。
クラリスはなぜ上司の忠告を無視してレクターに必要以上に近づいたのか
クラリスはレクター博士に会う前に、上司であるクロフォード主任捜査官から「レクターとは個人的に接するな」と釘を刺されます。
しかし最終的にクラリスは羊にまつわる最悪の過去の出来事までレクターに話すことになります。
それは彼女に興味を持ったレクターが、バッファロー・ビル事件の手がかりと引き換えに彼女の個人情報を欲しがったからでもあります。
しかし、それはクラリス自身が望んだことでもあるはずです。
彼女は羊にまつわる強烈なトラウマの持ち主であり、精神鑑定を受けてもおかしくない人物でした。
そこで彼女はレクターの天才的な洞察力に触れるにつれ、彼からのセラピーを求めるようになったのかもしれません。
結果、レクター博士はみごとにクラリスの中の羊を黙らせることで治療に成功したのです。
サスペンスを盛り上げる2つのテクニック
『羊たちの沈黙』は知的でアーティスティックな作品であると共に、エンタメ性にもあふれています。後世の映画史にも引き継がれた2つのトリックを見てゆきます。
殺害犯のなりすまし逃亡
精神病院からの移送先の収容施設で、レクター博士は脱走に成功します。その経緯は今観ても斬新です。
レクターは監視役の2人を殺した後、その1人になりすまして駆けつけた多くの警察官をだまします。
そこでカギになるのが、レクターが被害者の顔を傷つけていることです。それはなりすまし犯行と共に殺害自体にも効果を発揮します。