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市川崑監督、石坂浩二主演による1976年公開の『犬神家の一族』はあまりにも有名な作品です。
入り組んだ構成と謎が観る者を一時も離してくれません。
そんな名作『犬神家の一族』の中で、なぜ佐兵衛は遺言状に珠世の名を残したのでしょうか。
そして、松子の本当に欲しかったものは遺産なのか……。
犯行の裏にある登場人物たちの本意に迫っていきます。
珠世の名を記した佐兵衛の意図
劇中に登場した全財産を野々宮珠世に与えるという遺言状……。
3人の娘たちを差し置いて、なぜ珠世は選ばれたのでしょうか。
野々宮珠世は佐兵衛の孫だった
劇中では入り組んだ設定に頭を悩ます人も多かったようですが、珠世が命の恩人の孫だから財産を全て渡す、というのは建前です。
「命の恩人」という言葉が、佐兵衛は義を重んじる律儀な人であると観客を見事にミスリードしています。
真実は珠世は愛すべき孫、遺産を全て珠世に渡すというのも納得のいく話ではないでしょうか。
納得のいかない遺言状
珠世が3か月以内に死んだ場合、犬神家の全財産は5等分され、5分の1ずつを佐清、佐武、佐智に与え、残りの5分の2は青山菊乃の息子・静馬に与える
引用:犬神家の一族/配給会社:東宝
上記は遺言状の一部です。
遺言状を観る限り生前より全く愛されず、遺言状にも全く名前の出てこない3人の娘たちの思いは計り知れないものがあります。
野々宮珠世は佐清、佐武、佐智の中から配偶者を選ぶこと
引用:犬神家の一族/配給会社:東宝
こちらも遺言状の一部ですが、配偶者の候補の中に静馬が出てきません。
なぜ静馬は配偶者になれないのかと疑問が浮かびますが、これは後に回収される「叔父だから」という現実の伏線となっています。
近親者の婚姻は法律で禁止されており、全ての関係性を理解している佐兵衛だからこそ残せた遺言状となります。
本作ではひとつの遺言状がすべてを紐解くカギになっているのです。
入り組んだ構成に頭を悩ませてしまったら、原点の遺言状に戻って観るとそのからくりが解けていくでしょう。
そして、この珠世中心の遺言状には実の孫だからという他にも深い理由が隠されています。
佐兵衛の歪んだ愛情が遺言状を生んだ
劇中で佐兵衛は愛情を注いだ量に比例した額を相続させています。
本作に置いて、この遺言状が全ての元凶ともいえるものなのです。
なぜ3人の娘を冷遇したのか
晴世に義理を通し、他の愛人たちに愛情を注ごうとしなかった佐兵衛は観方を変えれば一途に晴世を思う男性とも感じます。
一途さゆえに愛人を邪険にしその娘までも邪険に扱ったのです。
ならば、愛人など作らなければよかったのに……、と思いますがそこは男の性なのでしょうか。
晴世への「愛と義理堅い思い」が珠世の名を刻んだ
遺言状に珠世の名を刻んだのは、晴世を正妻として屋敷に呼べなかったという思いもあったことでしょう。
また珠世を家族として迎えられなかったという贖罪もあったのかもしれません。
本当に晴世を愛しており、その孫に愛情が傾いた結果ともいえます。