ひとつの愛が、他者を苦しめているということを佐兵衛は何とも思っていなかったのでしょうか。
憎悪にかられ悪役として描かれている3人の娘たちは、悲劇が生んだ可哀そうな女性たちといえます。
静馬に全財産を与えようとしていた
劇中で佐兵衛は、晩年彼が心から愛した女性(青山菊乃)に全財産を譲る段取りもしています。
佐兵衛の愛情は大きく歪んでおり彼自身が愛にうえていたかのような印象を受けます。
佐兵衛は戦争により孤児となっていますが、戦争という時代背景も歪んだ愛の原因になっているのでしょう。
本作のドロドロとした愛憎劇の裏には、戦争という大きなキーワードが隠されています。
深く考察していくと、戦争が愛の歪みを生み出した元凶となっているのです。
遺言状の公開時期
遺言状の公開時期についても、佐兵衛の歪んだ愛が隠されています。
劇中で遺言状の公開を「佐清が復員した時」としていましたが、これは佐清を思ってのことではないでしょう。
おそらく佐兵衛は珠世が佐清と心を通わせていると気づいていたと考察出来ます。
また長男である佐清と結婚すれば、正式に珠世が犬神家の家族となれるのです。
だからこそ、佐清が復員するまでは遺言状の発表が止められていたというのが真実ではないでしょうか。
全ては珠世の為……、佐兵衛の愛は恐ろしいほど珠世に偏り、執着にも似た愛情を感じずにはいられません。
もしも本物の佐清が犬神家に復員していたら、連続殺人は起こらなかったことでしょう。
松子が遺産よりも欲しかった物
なぜ松子は罪を犯してまで遺産を欲しがったのか、真意に隠されたものは財産ではなかったのです。
息子への愛
松子は元々自分の犯している殺害を隠蔽する気はなかったのではないでしょうか。
目的はただ一つ息子佐清に財産を継がせるためなのでしょう。
捨て身とも思える松子の行動にも、歪んだ愛を感じます。
自分が父親に愛されなかった分、息子には極上の愛をそそいだのです。
もしも松子がもっと早く静馬だと気がついていれば惨劇は起こらなかったかもしれません。
松子は自分が財産を欲しかったわけではない
松子が自分の為に財産を手に入れようとしていなかったことは、その行動に現れています。
それは静馬の正体を知り彼を殺すシーンです。
もし私利私欲のために殺人を起こしていたら、目の前に息子として存在する静馬を利用するはずです。
しかし松子の目的はあくまでも息子の佐清に財産を残しすことだったのでしょう。
歪んでいたとはいえ、母親としての強い愛が彼女の行動の原動力だったことは疑いようがありません。
原作に観る母の必死さ
劇中では白いゴムマスクをすっぽりと被っていた佐清でしたが、原作ではもっと佐清の顔に似せた仮面をかぶっています。