引用:欲望/配給会社:MGM
編集者に殺人の話を聞いてもらおうにも、トーマスは上手く伝えることが出来なかったのです。
盗まれた写真を証明する手段が分らなかったのでしょう。
本当に殺人があったのか否か、トーマスは自分を信じることが出来ない状態です。
スウィンギング・ロンドンという背景
舞台の背景となったイギリスの若者文化「スウィンギング・ロンドン」は、快楽を求める文化であり楽観的な生き方が特徴です。
劇中に登場するトーマスも、まさにスウィンギング・ロンドンの中を生きる若者です。
快楽を次々と求める彼の生き方は、空虚なもので彼の中身は空っぽです。
信念がなく飽きっぽい、落ち着きがなく無音という空間を嫌っています。
彼の送っている人生は、無くした写真の記憶のように曖昧で現実か幻かわからないような生き方だったのではないでしょうか。
なくした写真は当時の若者たちを象徴しているかのようです。
欲望とは罪なのか
本作の邦題になっている「欲望」ですが、劇中の若者たちは欲望のまま生きている存在でした。
欲望には空虚さがある
スウィンギング・ロンドンの真っただ中を描いた本作は、メインとなる殺人事件さえないがしろに物語が終了します。
誠実な若者なら、この後事件の真相を追っていくのでしょうが、トーマスはこの事件をうやむやのままラストを迎えるのです。
トーマスは好き勝手に生き、まるでストーリーがないかのような抽象的な映画といえるでしょう。
しかしそれこそが監督の狙いだったのではないでしょうか。
この映画は、スウィンギング・ロンドンを生きる若者たちの生き方そのものです。
欲望を追いかける彼らの生き方に物語はありません。
多くのカルチャーを生み出したスウィンギング・ロンドンですが、その文化の闇こそが欲望です。
欲望への執着心の薄さが問題
人の持つ欲望は決して悪いものではありません、欲望を突き詰めていけば、才能に繋がるからです。
しかし劇中に描かれていたのは、芯のない欲望でした。
多動性障害ともとれる主人公の行動が示すものは、欲望に支配されてしまった人物です。
一度は殺人事件を予期するほど執着した写真ですが、上手く人に伝えることが出来ないとわかると他の欲へと支配されます。
人の持つ欲望は決して罪ではありませんが、欲望に支配されてしまうことは罪を意味するのかもしれません。
欲望の暴走
本作には冒頭とラストに白塗りの若者たちが、奇声を発してはしゃぎながら、街中をトラックで暴走する場面が挟み込まれています。
このモッズの白塗り集団は、1960年代のイギリスを代表する文化を象徴しています。
音楽やファッションを楽しむ文化は、時に暴走するものです。
自分の欲望に支配された若者たちとして抽象的に描かれているようです。
無音のテニスシーンに込められたメッセージ
劇中で自分を取り巻く静けさに耐えられないトーマスが描かれていました。