しかしカルメンは自分から進んでホセに命を差し出します。
ホセはカルメンにとってすでに愛の冷めた男性でしたが、ホセの行動の責任は自分にあると感じていたのでしょう。
過去にホセを愛してしまった自分がいたことを認めつつ、その代償を死をもって受け入れているのです。
ホセに愛された結末は「死」しかない
ホセは執拗に彼女を追いかける生真面目で一途な男性です。
そんな男と恋仲になったら、行きつく先は泥沼である事をカルメンは知っていたことでしょう。
しかし彼女はホセに恋する気持ちを止めようとはしません。
例え最後が泥沼でも、自由に恋をすることを選んだのです。
タロット占いで「死」を予言された時から、彼女はすでにホセとの恋愛が「死」につながることを予測していたのかもしれません。
愛ゆえに殺したのではない
ホセはカルメンを愛するがゆえに殺してしまう。というのが一般的な捉え方ですが、より詳しく作品を考察すると、カルメン刺殺の動機はそれだけではないようです。
ホセはカルメンに恋をしたことで、職を失い安定した穏やかな生活も失ってしまいます。彼にはカルメンしか道はなくなったといえるでしょう。
しかしカルメンは他の男に心を寄せてしまうのですから、多少逆恨み的な心情もあったと考察されます。
ホセにしてみると、カルメンに自分の未来を壊され路上に放り出されたようなものです。
カルメンとは対照的に、ホセは自分の行動を他人のせいにするタイプだったのかもしれません。
「闘牛士を好きになったから」ではない
カルメンが闘牛士のエスカミーリョを好きになったから、嫉妬に狂い刺殺した。という単純なストーリーではありません。
カルメンは殺される前に、すでにエスカミーリョのことは好きではないと言い切っています。今は誰も好きではないとホセに言い放ちます。
ただの嫉妬ならエスカミーリョが振られた時点で怒りはおさまります。しかしホセがカルメンを刺す理由は他に合ったのです。
それは自分のものにしたいという独占力です。そしてこれこそカルメンが最も嫌うものだったのです。
カルメンは命を懸けて自由を守り抜きました。
違った見方をすると倍楽しめる
名作「カルメン」ですが、観る角度を変えると全く違う話になることでも有名です。
カルメンサイドから観ると、自由に生きて人生を謳歌している女性がストーカー体質の男性と一夜を共にしたことで執拗に迫られ殺されてしまう悲劇の物語となります。
一方ホセサイドから見ると、真面目で一途な男性が悪女にもてあそばれ狂気へと誘われる悲劇の物語となります。
ふたりのうち、どちらに感情移入するかで作品は全く別の顔を見せてくれます。
自由を求める強い女性の物語
女性の情熱的な生き方を鮮明に描いた「カルメン」は、悲劇ながらも長い時を経て多くの人に愛されてきました。
ホセとの愛がテーマになっていますが二人の性格はあまりにかけ離れており、ともするとホセはカルメンの生き方の引き立て役ではないだろうかとさえ感じます。
「カルメン」は対局な愛し方をじっくり堪能できる不朽の作品といえます。