家族の死を現実として受け止め始めために、大きなものを失ったショックと孤独がフィルを支配している様子を表しているのです。
この不安定さはフィルだけではありませんでした。
すべてを敵に回したグロリアもまた、子供と逃げることへの不安に自分を見失いそうになっていました。
2人の精神状態は徐々にシンクロしていったのです。
グロリアが命がけで自分を守ってくれる姿を目の当たりにしているうちに、対等になりたいとフィルが成長していきます。
その気持ちを受け止めるかのように、グロリアもフィルのために戦おうと心を決めるのでした。
2人の心の距離
お互いに怒りをぶつけ合っていた2人が、唯一無二のパートナーとなるのにそれほど時間はかかりませんでした。
グロリアが肝を据えて元恋人のマフィアのボスに話をつけにいった際の会話に、フィルへの評価が述べられています。
今まで一緒に寝た男の中でも最高ね
引用:グロリア/配給会社:コロンビア映画
親子や恋人、親友。そういう関係性の上をいく、2人だけの絆がそこにはあるのです。
フィルの居場所が分かった理由
グロリアが死んだと思ったフィルが墓場へ向かった理由は理解できます。
しかし逆にグロリアがフィルの居場所が分かったのはなぜでしょうか。
多くの方が思いつく伏線といえばこれでしょう。
墓は違っても魂はみんな同じところに集まるからね
引用:グロリア/配給会社:コロンビア映画
早とちりしたフィルが、グロリアの魂を見つけに墓場へ行くと見越しての、グロリアの行動だと解釈していないでしょうか。
誰もが分かる伏線ほど、実は緻密にしかけられた罠の可能性があります。
フィルの家族にお別れをいう為に墓参りをしましたが、その時にはすでに自分が死ぬかもしれないと予感していたグロリア。
自分の死後、フィルに会う為にこの伏線を張っておきました。
このことから分かるのは、早い段階からグロリアはフィルのために人生を捧げる決心をしていたということです。
グロリアは生きて帰れたのか
マフィアのアジトに1人で乗り込んで、無事で帰って来られるとは思えません。
しかもエレベーターの天井にあれほどの銃弾を受けて。
グロリアが死んだシーンは描かれていませんし、ラストシーンではおばあさんに変装したグロリアが墓場へ会いに行きています。
なにやら、グロリアの生死を判断するにはまだ考察が足りないようです。
エレベーターが蜂の巣に
ピンヒールで道路や階段をカツカツと進んでいくグロリアが幾度となく写し出されています。
颯爽と歩く姿に迷いは感じられません。しかし、マフィアのアジトに乗り込む時、エレベーターを使用したのです。
一貫して階段を登っていたグロリアが最後だけはエレベーターを使ったのには、監督の意図があったのでしょうか。
エレベーターを使って、グロリアが撃たれて死ぬところを見せない工夫をしました。
それと同時に、エレベーターを棺桶に見立てたという解釈が成り立ちます。
日本だと遺体は火葬しますが、アメリカでは土葬の文化ですから、棺桶のまま土の中に埋葬します。
グロリアは棺桶に見立てたエレベーターの中で遺体となって、まるで土に埋められているように暗闇に沈んでいく。
ここまできてあえてエレベーターを使用するのは、思った以上に特別な意味があったのです。
グロリアとの再会は夢?
フィルがグロリアに別れをいうために墓地にきた時には、たしかにフィルは生きていました。
そして変装したグロリアと感動的な再会を果たしたはずです。
しかし、グロリアは死んでいます。感動的な再会を果たすことは不可能。
では、フィルが見たグロリアは一体なんだったのでしょうか。
もし、フィルが夢を見ていたというのならば、その説明は唐突すぎます。