それにも関わらず、念願の外界へ戻ってきたジョイは、待ち望んでいた結果とかけ離れた社会の対応に失望してしまいます。
現実とのギャップ
この閉ざされたルームから脱出できたら、かつての生活に戻れるのだという想いだけが母親ジョイを生かしていたはずです。
しかし、実際に彼女たちを待ち受けていた現実はどうだったでしょうか。
奇異の目や心無いインタビュアーの言葉、両親の離婚。何もかもが変わっていました。
現実とのギャップを受け入れられないまま、とうとう自殺未遂を起こしてしまうのです。
母親ジョイに自殺を選ばせる外界は、彼女の青春と日常を奪ったルームよりも残酷な場所なのでしょうか。
ルームに別れを告げる
ラストシーンで部屋にあるもの1つ1つに「さようなら」をいう姿はとても印象的です。
息子ジャックにとって部屋にあるものは“友達”だったのですから、そのみんなにお別れするのは悲しみもあったと思います。
母親にとってもこの別れの挨拶は、特別なものだったと推測できます。
悲惨な過去と決別をし、母子2人で新しい人生を歩もうという誓いが込められていたのです。
母親ジョイを襲う社会問題の根源
監禁場所であるルームを出て、晴れて外の世界へ足を踏み出した母親ジョイを、社会は歓迎しませんでした。
報道される犯罪に対して、私たちは無責任です。
私たちの好奇心を掻き立てるために、連日メディアは被害者家族にコメントを求めたり、撮影したりします。
加害者が逮捕されれば「よかったね」と感想を述べ、挙げ句の果てに次の日には忘れている始末。
被害者がその事件によって背負わされる重圧と世間からの好奇の目。
事件を起こした加害者が悪いのは当然ですが、それを報道やネットで話のネタにするなど、心無い行為が被害者を苦しめています。
そして、その二次被害を引き起こしているのは、事件とは直接関係のない私たち第三者なのです。
映画「ルーム」の母親ジョイもまさにこの二次被害をこうむり、自殺未遂にまで追い込まれてしまいました。
日本においても例外ではありません。
事件は事実上解決したけれど、残された被害者家族をそっとしておいてくれない現状があるのです。
映画「ルーム」は監禁生活から無事抜け出せただけのハッピーエンドの作品ではありません。