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「ワイン」とカリフォルニア縦断の「ロードムービー」そして「大人の恋愛」を通して人生を考えさせられる味わい深い映画が「サイドウェイ」です。
ビッグスターが居なくても、脚本が良ければ良い映画は出来るという見本のような作品。
イメージが固定化されてしまいがちな有名俳優のキャスティングを敢えて避け、演技派の中堅を並べました。
物語からリアリティを感じてもらいたいというアレクサンダー・ペイン監督一流のこだわりです。
その結果、出来の良い(アカデミー賞脚色賞受賞)脚本と味のある俳優たちと「カリフォルニアの乾いた空気感」が、極上のワインの様な映画を作りあげました。
ワインと人生の関係やタイトルの意味するところなどを考えながらこの映画をみていきましょう。
渋いキャスティング
4人の俳優たち
ペイン監督が自らオーディションして選んだ主役の4人は以下のようなメンバーです。
皆もう若くはなく人生を語っても嘘くさくない年齢で、それぞれ心にキズを負って生きている役どころを好演しています。
- マイルス(中学の国語教師で小説家志望:2年前に離婚。ワインおたく)=ポール・ジアマッティ。
- ジャック(落ち目のテレビスター:翌週土曜に結婚を控える)=トーマス・ヘイデン・チャーチ。
- マヤ(レストランのウェイター:最近離婚した。大学で園芸学も学ぶ)=ヴァージニア・マドセン。
- ステファニー(ワイナリーの従業員:離婚し幼い娘がいる。活発で行動的な女性)=サンドラ・オー。
それぞれの俳優たちのフィルモグラフィーを眺めるとその出演作品の多さが目立ちます。
それだけテレビや映画の世界で引く手あまたの名脇役たちです。
みな表現力豊かな俳優で、この4人が綾なすビターな大人の世界は味わいの深さを感じます。
サンドラ・オーは当時ペイン監督とパートナーの関係にあり、描かれる彼女の性格を考える時、監督の人間臭さを感じさせます。
ワインの映画ではない
人生を考えるツール
これは映画を観た人は等しく感じるところでしょう。この映画はワインの話がたくさん出てきますが、ワインの映画ではありません。
映画を観てもワインをツールとして人生を描いているという構図は割と分かりやすく理解できるはずです。
原作となっているレックス・ピケットの小説の主旨でもあり、脚色も担当した監督自身も各方面のインタビューで語っているとおりです。
日本で劇場公開された時のタグラインが「カリフォルニア、ワインロード、人生が熟成していく贅沢な寄道・・・」でした。
中でも、映画の半ばあたり、マイルスとマヤが語り合うワインの話が象徴的です。
マイルスは自分の人生や性格、人間関係をワインに関する薀蓄を通して説明するかのようにマヤに語るのです。
そしてマヤの次の台詞が決定的ともいうべきものでしょう。
今日開けたワインは別の日に開けたものとは違う味がするはずよ どのワインも生きているからよ
日ごとに熟成して複雑になっていく ピークを迎える日まで あなたの61年物のように
ピークを境にワインはゆっくり坂を下り始める そんな味わいも捨てがたいわ
引用:サイドウェイ/配給会社:20世紀フォックス
ピノ・ノワールとカベルネ
メタファーとしてのブドウの品種
その中でマイルスがこだわるのが赤ワインとなる「ピノ・ノワール」というブドウでした。
マイルスによればこのブドウは土壌や気候に左右されやすい繊細な種類で気まぐれで早熟、育てるのが非常に難しいといいます。
それに対し、「カベルネ」という品種は華やかでチカラ強いけど自分には合わないとも。
そしてマイルスは別れた妻ヴィクトリアは、「ピノ・ノワール」の味わいが分かる女だったというのです。