「泥の沼」を語る上で、子役の演技を見逃すことは出来ません。

世界中から高い評価を得ており、劇中の子役がスピルバーグ監督から絶賛されていることも有名な話です。

残念ながら3人の子役は「泥の河」1作品のみの映画出演となっており、その後芸能関係から離れたようです。

信雄の成長物語

小栗康平コレクション1 泥の河 (小栗康平コレクション<全5巻>)

演技ではなくドキュメンタリーを観ているようだ、と絶賛された子供達の中で主役として描かれたのは、信雄です。

戦後の貧困を描いたこの作品は、同時に信雄の成長物語でもあります。

貧しいながらもそれなりの生活を送ってきた純粋な少年が、自分とは異なる世界に生きる友人と出会います。

世の中に存在する闇を知り、大人の事情を感じ取り子供なりに消化していく姿が見事に描かれているのです。

映画を観返す際に、信雄の心情にフォーカスを当てて観るとまた違ったストーリーが見えてくるでしょう。

「お化け鯉」は死を意味する

螢川・泥の河 (新潮文庫)

映画に登場するお化け鯉が何を象徴しているのか、映画だけではわかりにくい部分です。

しかし原作を読むと、その答えがはっきりと提示されています。

お化け鯉の存在

劇中で信雄と喜一をつないだお化け鯉は、河に住む巨大な鯉のことです。

このお化け鯉は信雄と喜一しか見ておらず、信雄は老人が河に落ちて鯉に食べられたともいっています。

映画ではさほど登場しないお化け鯉ですが、実は重要な役割を果たす存在だったのです。

原作と映画のラストシーンの違い

映画でのラストは信雄が喜一の名前を呼び続け、舟がトンネルの中へ消えていくシーンで終わっています。

しかし原作では、信雄が「お化け鯉が舟を追っている」と喜一に向って叫び続けます。

そして、舟の後ろにピッタリとついていくお化け鯉を見つめる信雄の姿で物語は終わりを迎えます。

お化け鯉とトンネルは死を意味する

河に住むお化け鯉は、元々河にいたのか喜一たちが引き連れてきたのか、詳細は描かれていません。

しかし、河にお化け鯉がいることで数々の「死」を招いていると考察出来ます。

原作のラストシーンで喜一たちの舟についていったお化け鯉は、今後の喜一たちの運命を暗示しています。

映画では、お化け鯉をトンネルに置き換え運命の向かう先を闇の中へと向けました。

戦後を描き、戦争を語る映画

川三部作 泥の河・螢川・道頓堀川 (ちくま文庫)

2017年にリバイバル上映された「泥の河」は独自の視点から戦争を描いています。

戦後10年を過ぎてもなお戦争の傷を深く残す子供達の姿は、改めて戦争を考えさせられる映画です。

純粋な存在であるべき子供が、多くの闇を溜めこんでいます。

歴史の1ページとして、後世に伝えていくべき映画といえるのではないでしょうか。