盲目になってしまうことや移民であることが原因で、壁を作ってしまったことが自らの死に繋がったのかもしれません。
キャシーやジェフは献身的にセルマを支え、親切に接してきていましたが、最後まで2人の本心はセルマには届きませんでした。
息子であるジーンのことさえ、どこかで信用できていなかったからこそ病気の話も出来なかったのではないでしょうか。
話をする機会は何度だってありましたが、セルマははぐらかすことしかできませんでした。
裁判の時でさえ、その場にいないビルとジーンの名誉を傷つけないように自分だけを傷つけていました。
母親としての強さやこれ以上弱さを見せたくないという想いは命より大切なものだったのでしょうか。
セルマが暗闇に慣れてしまっていたこと
幼いころから遺伝の目の病気を知っていたセルマはそのことで感情を抑える癖がついていました。
他人に話したところで理解されない想いを噛みしめ、自分と同じ病気を引き継いでしまった息子に申し訳なさを感じながら生きてきたのでしょう。
辛いことがあっても、自分の中で我慢し抑え込むことに慣れてしまっていました。
セルマの好きなことや楽しいことは目が見えなくなるせいでどんどんと制限されていきます。
13歳までに手術を行うことができなかった自分を反面教師にするしかなかったのでしょう。
セルマの中では目が見えなくなること=死を表していたのかもしれません。
ジーンの目さえ守れば、ジーンは幸せになれると本気で思っていたからこそ自分を大切にはしなかったのです。
鬱屈とした世界に慣れ、盲目になった自分を愛することができなかったこともセルマの悲しい結末へと導いてしまっていたのでしょう。
救いのない世界の真実はどこにある?
音とリズムで一時的に逃れることができた
救いのない悲しいセルマの人生では、現実逃避を行う瞬間が多々ありました。
これは最後の歌じゃない、わかるでしょ。
私達がそうさせない限り、最後の歌にはならないの。
引用:ダンサー・イン・ザ・ダーク/配給会社:松竹
映画でラストを見てしまうことが嫌いなセルマは最後から2番目の曲で映画館を去るようにしていました。
最後まで観てしまって、楽しい時間が終わってしまうことが嫌だったからです。そのことを自分の人生でも同じように考えました。
最後から2番目の曲を刑が処されるその瞬間まで歌い続け、自身が悲しくならないよう、楽しいままの思い出を持って処刑されます。
たとえそれが自己中心的で周囲に対する思いやりに欠けていようと、音とリズムがいつだってセルマの心を癒してくれたのでした。
救いのない世界では自分が立っていることが必要
ひとつの嘘を守るために嘘を重ねていくことで、何もかもが裏目に出てしまっていたセルマは地に足がついていなかったように見えます。
彼女を動かすものは息子の目のことだけで、多くのことを見えなくなる目のせいにして諦めていくのです。
お金がないと話すビルに自分はお金を持っていると話していたり、大好きなミュージカルで役を降りるときも正直には話しません。
どこか諦めた感じでフラフラとしている印象を受けます。その性格は死ぬ瞬間まで変わることはありませんでした。
ジーンにとって一番大切なものが何かも分からず、大切なものさえ見失っていたのです。
ジーンはひとり息子で、セルマはジーンにとってたったひとりの家族でした。視力を失ってしまおうと命に代えられるものはありません。