警察内でも五十子会にもこの殺人事件は大上が実行犯だと思われていたので、そういったことも因縁として残っていたのです。
加古村組が尾谷組のシマなど無視して好き勝手にするようになったことの原因が五十子にあることを大上は気付いていました。
何かをすれば大上に気付かれる状況と争いが起きないように奔走する大上の姿が気に食わなかったのでしょう。
呉原市では大きな権力を持っている五十子が、警察の言いなりになることは出来なかったのです。
様々な悪事はもちろん、警察の大上にまで非道なやり方でいたぶり死に追いやった五十子が悪の根源であったのではないでしょうか。
タイトル【孤狼の血】を象徴する男は日岡か大上か
監察官に利用されていた日岡
広島大学出身の真面目な新人である日岡は当初、警察の正義を信じてやみませんでした。
彼の持つ警察のイメージと大上が違いすぎることで大上を非難し辞めさせたいと思っていたのです。
しかし、表向きは綺麗で中は汚い警察にイメージを植え付けられ監察官に操られているにすぎませんでした。
自分の正義を持っていると勘違いし、利用され手の平で踊らされていただけだったのです。
大上と出会って共に過ごすようになってからは短期間のうちに様々な経験をし葛藤や苦悩を繰り返します。
その想いを経て、大上の持つ独特で常人離れした価値観を自分の中に落とし込んでいきます。
最後には最初とは全く別人の日岡へと成長しましたが、大上があってこそ最後の日岡の姿があるのです。
暴力団側から信用され最前線を生きてきた大上
常に暴力団と密接に接し、現場の人間を自分のコマのように扱ってきた大上は署内でも浮いた存在でした。
見た目や言動からしても警察っぽくはなく、乱暴な振る舞いをしていました。しかし大上は巡査部長であり、実績を多く残していたのです。
他の人には真似できない方法で暴力団関係者も一般人も、誰もが大上にとっては情報をくれる存在でした。
唯一無二の存在でありながら実力がある大上こそがタイトルである【孤狼の血】を象徴する男なのでしょう。
群れの中に入って行っても結局はそれは馴れ合いで、大切なところではひとりで動いてしまう大上の姿を表しています。
この作品の中で掲げる『正義』とは一体何か
さまざまな内部の出来事をひた隠しにし、大上にそのことを把握されて身動きが取れない警察の『正義』とは何なのでしょうか。
自分達は不祥事があれば全てもみ消しており、正義を語れる器ではありません。
評価と処罰を人一倍味わってきた大上は常に現場に寄り添い、カタギを守ってきました。
そのスタイルが何でもありで時には手が出ようと、犯罪まがいのことを行おうと人々を守ってきたのです。
警察内でも呉原市の人々にとっても大上は必要悪だったのでしょう。
社内からも暴力団からも疎ましく思われることがあっても、自身のスタイルを崩すことなく街の秩序を守り続けました。
いつか危ない目に合うということを分かっていてもそれが大上の『正義』だったのです。