ヘンリーは学校ではいじめっ子ながら家では父にいじめられている、いじめの連鎖を体現したような少年。
父に対する憎しみや恐怖がペニーワイズを引き寄せてしまい、ペニーワイズの支配で父を刺殺しビルたちを襲います。
ルーザーズクラブの結成
ビルたち、ヘンリーを除いた上記7人が結成したグループ「ルーザーズクラブ」。
「いじめられている側」という自虐から、自ら「ルーザーズ」つまり「負け犬」と称しています。
しかしこれは無意識に「自分たちは負け犬だ」と開き直ることで負ける恐怖を克服していたのです。
だからこそ、ルーザーズクラブの結成はペニーワイズ撃退のきっかけとなります。
一連の事件で…
ジョージーの誘拐から始まった「子どもばかりを対象」とした「行方不明」に「殺人事件」の数々と、ペニーワイズへの猛攻。
一連の事件を通じてそれぞれの人物がどうなったのかも整理しておきましょう。
さらに、子どもたちが何に恐怖を感じていたのかも明確にしておきます。
ペニーワイズ
棲み家「井戸の家」を突き止められ、乗り込まれたペニーワイズ。
ただルーザーズクラブは元々気の弱いメンバーで構成されていますから、個別にしてしまえばペニーワイズの勝ちとなります。
加えて人間を超越した存在であるペニーワイズにとって子どもたちを個別行動に誘導させるなど容易なことなのです。
だからペニーワイズはひとりずつバラバラにして、自らのものにしようと試みます。
しかし予想に反して、ルーザーズクラブのメンバーはそれぞれ恐怖に打ち勝ち再集合してしまいました。
到達した最奥にはこれまでに行方不明となった子どもたちがプカプカと「浮かんで」います。
「ジョージーはすぐに食べられたのに浮いている子がいる」ということは、食べるのには何らかの基準があるのでしょう。
ペニーワイズはどんな形をも取れますから、誰かを誘導したり殺すために生かしておく必要はほとんどありません。
この「捕食基準」や「利用価値」については後でより深く考察していきます。
ビル
ジョージーを見つけるために必死になるビル。
1度目も先陣を切って井戸の家に乗り込み、再度訪れた際にはジョージーの姿を見つけて下水道を1人走ります。
引用:IT/イット “それ”が見えたら、終わり。/配給:ワーナーブラザース
しかしジョージーはペニーワイズの化けた姿で、本物ではありません。
ここで気になるのは、なぜペニーワイズがジョージーの姿を取ったのかということです。
ビルはジョージーを捜していました。
そこでジョージーに扮したところで、ビルに喜びを与えるだけで、恐怖を与えることはできないのです。
これはペニーワイズの捕食方法「まず恐怖を与える」ことに反します。
つまりこれは、裏を返せば「ビルはジョージーを恐れていた」ことになります。
正確には「ジョージーが生きていること」「生きているジョージーに兄失格だと責められること」を恐れていたのでしょう。
ジョージーを1人で行かせたこと、雨の日なのに外遊び用に船を作ったことの後悔に由来する恐怖です。
ジョージーを捜しながらも、「お兄ちゃんが船を作ったから外で遊んだら酷い目に遭った」と責められるのは怖かったのでしょう。
だからこそペニーワイズはジョージーの姿でビルを惑わせました。
リッチー
ビルの大親友リッチーは、1度目の井戸の家侵入時にエディが骨折してしまったことでビルを責め、仲違いしてしまいました。
しかしベバリーを救うためにと、もう1度ルーザーズクラブの面々で井戸の家へ向かいます。
引用:IT/イット “それ”が見えたら、終わり。/配給:ワーナーブラザース
お調子者のリッチーは明るく楽しいキャラクターながら、馬鹿ではありません。
馬鹿を装っていても、クラスメイトから本気で馬鹿にされいじめられるのが怖いという子どもらしさをもっています。
ただ親友であるビルを失うことはもっと怖いのです。
これが、1度は仲違いしておきながらもう1度井戸の家へ向かった理由でしょう。
つまりリッチーは、井戸の家へ向かった段階で自らの恐怖の一部を克服していたのです。
ベバリー
父に対して恐怖を抱いていたベバリーは、ついにペニーワイズに心を支配されてしまいます。
そして便器の蓋で父親を殴り殺した後、ペニーワイズに拐われてしまうのです。
引用:IT/イット “それ”が見えたら、終わり。/配給:ワーナーブラザース
ベバリーだけが生還した理由として「最も恐怖する父親を自分で葬りそれ以上に怖い存在がなくなった」とよく挙げられます。
しかしそれは誤りでしょう。
ベバリーはペニーワイズに支配されて父親を殺したに過ぎません。
自分の意思ではないのです。
また最奥の部屋に浮いていたベバリーの意識はベンの口づけで戻ります。
一方他の子に対しては誰も口づけを行っていません。
他への口づけを行っていない以上、意識が戻る基準については比較対象がないため推測となります。
ただ1番有力なのは、他の子どもたちは主人公たちと関係がないから目覚めなかったとの解釈でしょう。
つまりベバリーはルーザーズクラブの一員で、今後の物語の鍵となる人物だからこそ助かったのです。
冷たいようですが、他の子どもたちはいてもいなくてもストーリーに関係ありません。
不必要な人物は殺し必要な人物だけ生かしておくのが、アメリカホラーの特徴です。
ベン
知識豊富なベンは、排水溝が古い下水道管と井戸の家に繋がっているという調査結果をルーザーズクラブの面々に伝えます。
引用:IT/イット “それ”が見えたら、終わり。/配給:ワーナーブラザース
ベンが恐れているのはやはりいじめですが、ペニーワイズが父親の姿を取ることから、父にも恐怖を感じていたのでしょう。
母を支えられないこと、兄のように喧嘩が強くないことなどの引け目が亡き父への贖罪意識や恐怖に結びついたのだと考えられます。
彼は最初の引け目克服として「調査結果を伝えて」活躍し、少しの自信を身につけました。
そしてラストシーンでベバリーを目覚めさせる王子様役となることで、その引け目意識を払拭しようやく恐怖を克服するのです。
マイク
前作では本から飛び出したペニーワイズを押さえつけるなど活躍していましたが、本作ではあまり触れられていません。
しかし彼も黒人差別やヘンリーへの恐怖などと戦い、奥の部屋までたどり着きます。
屠殺への恐怖が強いマイクは、ペニーワイズと戦うこと自体が恐怖の克服となっているのです。
エディ
エディの怖がるものはなんといっても過干渉な母親と自身の虚弱体質です。
前作では自分の使用している喘息の薬をペニーワイズに吹きかけるという撃退を行います。
これは自分の分の薬をなくす行為です。
つまり薬がなくても大丈夫だと行動で示すことでいつ体調を崩すかわからないという恐怖に打ち勝ちます。
また全員仲間を失うことを恐れていますが、彼は特別仲間を母親のせいで失うことを恐れてもいるのです。
自分が骨折してビルたちとの交際を禁止されたときも、孤独を感じていました。
全員が仲間の喪失を怖がるからこそ、ペニーワイズは最後にビル1人を人質に取るのです。
しかしそのときには既にベバリーを残り全員で奪還した実績がありました。
その実績からくる自信と勇気が、エディ含め全員をペニーワイズに立ち向かわせます。
スタンリー
スタンリーもまた仲間を失うことを恐れています。
そして自身がユダヤ人という差別される人種であることにも、引け目ほどではないにしても馴染めないつらさを感じていました。
ただ直接攻撃してくるペニーワイズは、恐ろしくはあっても異物です。
馴染んでいないのは自分と同じ。
彼にとっては仲間やクラスメイトに疎外される方がはるかに恐ろしいのです。
臆病者の多いルーザーズクラブの中で、彼は1番ペニーワイズとの戦いに抵抗がなかったと考えられます。
ヘンリー
ヘンリーはいじめっ子で、クラスの中には怖いものなどありません。
ただひとつだけ、自分が父親の言いなりであることを知られて同級生からナメられることは恐れていました。
もちろん父親自体への恐怖もあったでしょう。
その恐怖がペニーワイズを呼び、彼はペニーワイズに意識を支配されてしまいます。
引用:IT/イット “それ”が見えたら、終わり。/配給:ワーナーブラザース
そしてペニーワイズの悪魔の囁きに乗り、父親を刺殺してしまいました。
ペニーワイズに意識を支配されて人を殺めてしまうと肉体もペニーワイズに支配されてしまうと考えられます。
これはペニーワイズの手に落ちるベバリーとヘンリーとの共通点です。