しかしこの一連の変身過程は基盤になっています。ジョーカーは最初から化け物ではなく、ただの中年プレイボーイだったのです。
ニコルソン流・軽快なジョーカー
ジョーカーが狂気のサイコパスになった理由は意外なことでした。
バットマンの仕打ちであまりにも変わった自分の見た目にショックを受けたことが、彼の精神をむしばんだのです。
持ち前の知性とユーモアに狂気が加わることで、ジョーカーはスーパーヴィラン・正真正銘の悪役に変貌しました。
バットマンの敵が完全なサイコパスになることで、物語全体が一気にリアルかつダークなものになったといえるでしょう。
ジョーカーの狂気は何よりも自分自身への憎悪から生まれたものでした。それはほとんどの犯罪者の深層心理にも通じているものです。
しかし、ジャック・ニコルソンはその最も危険な狂気をひょうひょうと表現しました。
それは彼の天性のユーモアがあってのことでしょう。彼はジョーカーであることを心から楽しんでいるようでした。
ヒース・レジャー:笑わないジョーカー
映画バットマン・シリーズの最高傑作として名高い2008年製作『ダークナイト』でジョーカーを演じたのがヒース・レジャーでした。
撮影後の急死も相まって伝説となった彼のジョーカーとはどんな存在だったのでしょうか。
暗黒ピエロ
ヒースのジョカーの大きな特徴はほとんど笑わないことでしょう。狂気の高笑いはジョーカー最大のトレードマークです。
ヒース・レジャーはそれを捨ててジョーカーを演じる離れ業を見せました。ヒースのジョーカーは世の中を笑うのにも飽きた印象を与えます。
それはバットマン・シリーズ史上・最も暗黒に染まったジョーカーだったといえます。
ヒースのジョーカーが笑うのは自らの凶行を楽しんでいる時だけ。
それも静かでシニカルな笑いであり、あの世界を引っくり返すようなジョーカーの高笑いとはかけ離れたものでした。
悪というものの底知れぬ奥深さ
大抵のジョーカーはゴッサムシティのマフィアと手を組みますが、ヒースのジョーカーは映画の冒頭から彼らを皆殺しにします。
序盤からいきなり一線を画すのです。彼はマフィアの本性を知っていました。
彼らが悪人のふりをしながら警察と癒着して市民の富を延々と奪い続けていることに心底うんざりしていたのです。
ジョーカーはマフィアの前で大量に山積みされた札束にガソリンをかけて盛大に燃やします。
それによって彼は自らが金銭に執着する強欲を超えた悪であることを見せつけたのです。
彼は自らを「カオスの代理人」だと言いました。混沌に仕えて狂気を楽しむ。ヒースのジョーカーはまさに悪の権化なのです。
そして、その真っ黒な狂気は作品全体に文学的な深みを与えました。
ヒースのジョーカーは悪の底知れぬ深さを突きつけることで、観るものの倫理観を大きくゆるがせたのです。
ジャレッド・レトとキャメロン・モナハン
ジョーカーは時に脇役としても登場します。近年目にした2人のジョーカーを見てゆきましょう。
恋人に優しいジョーカー
2016年公開の映画『スーサイド・スクワッド』ではジャレッド・レトがジョーカーを演じています。
ミュージシャンでもあるジャレッドらしく10代のパンクロッカーという外見が何よりも目を引きました。
このイメージ刷新が若者に受け、パーティ仮装の定番にもなったほどです。ヒースに触発されたジャレッドは入念な役作りをしました。
しかしこの映画でのジョーカーはハーレイ・クイーンを手助けするボーイフレンドという脇役に過ぎません。
また撮影場面も大幅にカットされ、彼のファンから大いに叩かれる映画にもなりました。
ジャレッドは何よりもジョーカーの最も意外な一面を見せたといえるでしょう。
ハーレイ・クイーンのために色々と頑張るその姿はとても微笑ましいものでした。
ジョーカーの狂気の裏側にあるそんなスイートさによって映画自体もどこかコミカルなテイストになっています。