出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07VJ728BL/?tag=cinema-notes-22
1990年代の始めにハリウッドの若きアウトサイダーとして華々しく登場したクエンティン・タランティーノ監督。
そんな彼も今ではアメリカ映画界の巨匠とも呼べる存在になっています。
2019年製作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は2020年のオスカー作品賞の最有力候補に挙がっているほど。
しかしその代表作は1994年製作の『パルプ・フィクション』だと答える人は世界中に数多くいるはずです。
今回は公開から四半世紀が過ぎても色あせることのないこの伝説的な映画について大いに語りましょう。
一見くだらないと思われる数々の会話には隠れた魅力があります。
英語のオリジナル原稿を元にして饒舌マシンガントークゆえに日本語訳では拾い切れなかったその意味に迫ります。
また最後のエピソードでヴィンセントが生き返ることで明らかになるユニークな構成についても解説しましょう。
伝説・ハンバーガーの話を深読みする
ヴィンセントとジュールスが交わすハンバーガーの話は他愛のない会話です。
しかしそこには知られざる知見と続くシーンを生かす効果があったのです。
ハンバーガーの重さになぜメートル法が関係あるのか
ハンバーガーの話は、ヨーロッパ旅行に行ったばかりのヴィンセントがジュールスに語るものでした。
パリではマクドナルドの人気ハンバーガー、クォーターパウンダーが「Royale with Cheese:チーズ・ロワイヤル」と呼ばれている。
クォーターパウンダーとは1ポンドの重さの4分の1、つまり0.25ポンド(約113.4グラム)の重さのハンバーガーを意味します。
ヴィンセントはクォーターパウンダーではない理由としてフランスがメートル法の国であることをあげました。
しかしメートルは長さの単位なので、「フランスはグラム法を使っているから」という理由の方が良いように思えます。
しかし実は正しい使い方なのです。というのもメートル法とは重さのグラム法もふくめた国際的な計量単位だからです。
しかもメートル法はフランス革命後に同国で初めて制定されたものでした。もしかすればタランティーノにはこの知識があったのかもしれません。
ヴィンセントの会話の中でパリのマクドナルドを選んだのもそのためではないでしょうか。
ちなみに日本はフランスと同じメートル法の国ですが、マックには昔からなぜかいつもクォーターパウンダーが置いてあります。
ブレットの悲喜劇の前フリ
ハンバーガーの話は続くブレットのアパートのシーンにも引き継がれます。
「チーズ・ロワイヤル」の要因がメートル法にあると見抜いたブレットはジュールスを大いに感心させました。
しかし、ジュールスはすぐに彼を脅し始めます。
ジュールス「What country you from!.(お前はどこの国から来たんだ)」
ブレット「What? (何)」
ジュールス「”What” ain’t no country I know! Do they speak English in “What”?
(お前はどこの国の出身だ。ホワットなんて国、俺は知らないぞ。ホワットって国の連中は英語をしゃべるのか)」
引用:パルプ・フィクション/配給会社:ミラマックス
ブレットは友達が目の前で殺されたばかりなので気が動転して何を聞かれても「ホワット」と答えるしかありませんでした。
そこでジュールスはブレットを外国人扱いし「どこの国だ」と聞きました。
それでも「ホワット」が返ってきたので「ホワット」という国を持ち出して彼をからかったという訳です。
ここはマシンガントークゆえに映画の日本語訳では省かれていました。
またハンバーガーの話でブレットを持ち上げたことは、次に彼をバカにする展開をよりおもしろくする効果があったといえるでしょう。
ちなみにブレットはその後も「ホワット」を繰り返したことで肩を撃ち抜かれました。
映画革命を起こしたハンバーガー・トーク
ハンバーガーの話には意味はあっても物語上の必然性はありません。しかしそれゆえに画期的な試みでした。