曲がる弾道で仲間達を撃ち抜き、同じ銃弾に自らも斃れたフォックスの頭の中にあったものは何だったのでしょう?
スローンの裏切りを知った彼女は組織の掟に従って自分達もスローンも死ぬべきだと考えました。
だからこそウェスリーに自分の銃を投げた理由は、暗殺の標的として1人残っているスローンの殺害をウェスリーに託したかったのでしょう。
フォックスにとっては、自らも含めて暗殺指令書に名前を書かれた者は必ず死ななければならない、つまり掟が絶対だったのです。
フォックスは自分の命にも人生にも全く関心がなく、ただフラタニティの掟に従うことだけの為に生きていました。
組織に盲目的に服従することを貫いたフォックスとそれまで身を置いていた社会に見切りをつけ、自分自身を発見するウェスリー。
この2人は対称的に描かれています。それゆえフォックスの死は、その後のウェスリーの覚醒をより色濃く際立たせるのです。
自問するウェスリー
フラタニティでの破壊行為の後、血だらけで街をさまようウェスリーの姿がありました。
彼は自問します。
今の僕は?
顧客管理担当?暗殺者?自分の父親を殺すよう洗脳されたマヌケ?
その全部であり どれでもない 今の僕は何だ?
引用元:ウォンテッド/配給会社:ユニバーサル・ピクチャーズ
ウェスリーは何もかも無くなった今、真の自分とは何か自問しているのです。
最後の1文の台詞にもあるように、そこには今までに見えていた自分に対する全てのイメージからの剥離があります。
注目すべきは、「どれでもない」と言っているものの中に、「暗殺者」も含まれているということです。
父と同じように暗殺者として生きるべく舵を切ったウェスリーですが、この言葉から、何か別の可能性も開けていることが推察されます。
いったんどこにも属さない真空地帯に身を置いたウェスリーは、根本的な真の自己という命題に正面から向き合っているのです。
問いかけの真意
ラストシーンのウェスリーの一連の台詞は、過去の情けない自分と決別しいかなるものにも囚われずこれから自分らしく生きていくこと宣言しています。
これが自分を取り戻した僕だ
スローンや “フラタニティ”やジャニスや
実績レポートや エルゴノミック・キーボードや 不実な恋人や友人に別れを告げる
僕は自分自身の生き方を取り戻したのだ 君 最近どんなことした?
引用元:ウォンテッド/配給会社:ユニバーサル・ピクチャーズ
最後に気がかりな問いかけの言葉を残して映画は終わります。
ウェスリーが最後に問いかける台詞が実に印象的ですね。ここには覚醒したウェスリーの真意が滲んでいます。
冴えない毎日を気弱な会社員として過ごしていた自分から、完全に自分自身にフィットする人間へと生まれ変わったウェスリー。
生まれてから知ることもなかった父親の全てを今は知り、確固たる自分を取り戻したウェスリーの人生の充実度は、もう100%です。
その彼が私たちに問いかけるのです。
この言葉は、ウェスリーの凄みのある眼差しと共に「真のお前は何だ?」という強いメッセージを突きつけてきます。
それは覚醒した者からの挑発であり、鼓舞でもあるようです。
真の自分を知らず、知る為のアクションを起こしたこともない者を嘲笑っているようにも感じられます。
そして私達は考えさせられるのです。真に自分らしくいられることを、そしてそのために自分は何かしただろうかと。
Wantedの暗示する意味
タイトルである『ウォンテッド』は、幾つかの意味に解釈することが出来ます。