ウィルの中で父・エドワードのイメージは双方の視点によって相対化され、一度振り戻しとなるのです。

必ずしも真実を知ることが面白さになるわけではないということをウィルがここで知った証でありましょう。

「嘘」も貫き通せば「真実」である

プライベートバンクの嘘と真実

結局ウィルがエドワードのホラ話を語り継ぐ明確な根拠は今ひとつ分かりません。というか、それすらもうどうでもいいのでしょう。

しかし、ウィルが父の最期をビッグ・フィッシュの伝説に準えたホラ話を作ったこと、また自分の息子に語り継いだことからあることが分かります。

それは「嘘」も貫き通せば「真実」であるということです。ウィルにとって父のホラ話の真偽、境界線などどうでもよくなったのでしょう。

諦観ともいえますが、ホラ話をホラ話のまま語り続けても胡散臭いだけで、かといって真実を知って最良の結果が得られるとも限りません。

その両方の気持ちを味わったからこそ、ウィルはエドワードに男として、そして父として格好をしっかりつけさせてあげたかったのでしょう。

これは同時に父の死に際してわだかまりがあったティム・バートン監督自身の心境そのものであったのかもしれません。

エドワードがホラ話を続けた理由

こうしエドワードの死は最終的にウィルによって違うものとなったわけですが、何故彼は最期まで息子にホラ話を語り続けたのでしょうか?

ここでは改めて真正面からその理由を考えてみましょう。

ユーモア=照れ

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ビッグ・フィッシュに限りませんが、ティム・バートン監督作品には常に独特の「ユーモア」があります。

どんなに真剣な話であっても、それをやや軽く見せる演出意図であり、本作ではそれが父のホラ話の内容・演出に現れています。

何故この「ユーモア」がファンタジーとして入るのかというと、そこに「照れ」があるからではないでしょうか。

人間の心理として、自分の話をするのは誰しも多少なり「照れ」があります。見せるはずのない生の部分を見せることになるからです。

ユーモアはこの時有効な手法となり、自身が活躍した話を真正面から正攻法で一切の虚飾なく語る恥ずかしさを和らげてくれます。

エドワードは最期までどこかで息子をはじめ親族に「真実」を知られたくなかったのでしょう。

「死」の事実を緩和する

ホラ話を最期まで語り続けたもう一つの理由は「死」という重たい事実を緩和することだったのではないでしょうか。

これは女優・桃井かおりが監督との対談で「ものすごくきついテーマを可愛らしく作れること」と仰っていたことも根拠に挙げられます。

ホラ話を最期まで語り続けることはまた息子・ウィルをはじめ自分を知る多くの人に「死」という重たさを緩和する効果もあるのです。

一歩間違えれば不謹慎とも取られかねないこの描写を決してバカにせず、真正面からも扱わずどこか軽く描いたことで作品全体に温かい印象を与えます。

怒濤の伏線回収

物語の伏線を張ると回収が簡単に作れます! : ~伏線表裏複眼法から伏線を作るコツについて~

そうしたユーモアに溢れた表現はラスト数分の伏線回収も兼ねた葬式のシーンにも現れています。

何とラストシーンではエドワードの話した人物が多少のホラ話との差異はあれど、その通りに集まってきたのです。

巨人もいれば、体が一つながらも双子として生まれた人達、軍の元兵士等々いずれも父が話していたホラ話通りだったのです。

そして葬式だというのに、何故か集まった人達が和やかに談笑しています。勿論ウィルが訪ねたジェニファーも中には居ました。

上記した「死」という事実を緩和するユーモアはこの伏線回収の葬式にもまた活かされているのです。

それは同時に父・エドワードこそが正に伝説の「ビッグ・フィッシュ(伝説の大物の魚)」であったことの他ならぬ証なのでしょう。

この葬式のワンシーンをもって初めて父・エドワードというキャラクターは完成を迎えるのです。

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「夢見ること」と「現実を知ること」の両立

「夢」が「現実」に変わる言葉

まとめると、ビッグ・フィッシュが一番描きたかったテーマは「夢見ること」と「現実を知ること」の両立だったのではないでしょうか。

本作が作られた当時、映画業界全体が9.11の同時多発テロへの現実と向き合うことになり、映画もテーマとして重たいものが多くなりました。

しかし、映画とはそのように「現実を映すこと」だけが役割なのでしょうか?

確かに映画には「現実を映す」というある種の使命、役割があります。しかし同時に映画とはそれ以前に「作り物」である筈です。

ティム・バートン監督はビッグ・フィッシュを決して亡き父への餞に終わらせず、映画の意義を「作り物」の役割へと引き戻そうとしました。

寧ろ「現実=真実」があるからこそ空想から生まれる「幻想=嘘」もまた生きてくる。

本作は実にティム・バートン監督らしいユーモア溢れるタッチで優しく、しかし鋭く重いテーマを絶妙な匙加減で作り上げました。

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