姉の篠が死に、妹の里美も残り椿のうちの1つと考えられます。
残り椿の2人が幸せになってくれるというシナリオも、篠は描いていた可能性があるのです。
篠と新兵衛と采女、新兵衛と里美という男女の組み合わせ。
監督はそれぞれ愛し合い、知り合った男女の武家時代の古風ながらも純粋な愛のあり方を表現したのです。
それは失われつつある日本の美しい風景とシンクロして表現したかった日本人の美しい「愛」の形ではなかったでしょうか。
演技は役者任せ
現場に台本を持っていかないことで知られる木村監督は、現場では役者に演技を付けることは殆どありません。
キャスティングの段階で現場での自分流を理解し、消化してくれる役者を選び、後は任せるのだそうです。
あとはなるべく役者たちと夕飯を一緒に食べること。
例えば、映画冒頭で新兵衛が篠にもたれ掛かるようにして会話をするシーンでは、武士の家ではありえないことなのです。
しかし役者同志で決めたことを木村監督がOKしました。
セリフも言いにくかったら変えていい、とまで言っていたといいます。
所作も大事だけれど、自分の家で、一人だったり夫婦だけだったりすれば、今の私たちがするような格好だってしたでしょう。
人間らしい自然な振る舞いでいいのだ、という監督の主義が今回の作品に反映されています。
篠の願いを新兵衛はどう受け止めたか
新兵衛は妻・篠の心にまだ采女がいる、と思い込んでいました。采女を殺せば、妻の中の采女も死ぬと考えたのかもしれません。
やり場のない怒り
別の男への愛を胸の中に秘めながら自分との生活を送っていたかと思うと、自分が哀れに思えたはず。
それでも篠を愛していたから妻を責めることはできない。しかし篠が死んだ今、自分の嫉妬と怒りを解放してもいいだろう。
それが裏切られていた自分の心を鎮める唯一の方法だったのではないでしょうか。
最愛の妻の遺言通り采女を助けたら、自分が可哀想過ぎる。
妻は死際に自分の本心を出した。自分だって自分の果たしたい願いがある。
命を懸けて恋敵を殺す。ただそれだけが新兵衛の願いだったのです。篠の本心に気付くまでは。
解けた誤解
決闘を初めた時は、自分は(采女に斬られるか自刃するか)恋敵を殺し自分も篠の後を追う決意だった新兵衛。
篠の、新兵衛には「生きて、生きて、生きて欲しい」との切なる願いを采女の言葉から知るに及び、刀を収めました。
妻に行動を読まれていたことを知り、本当に自分のことを分かってくれていたことを理解しました。
ここまで自分のことを理解して心配してくれていたということは、それだけ愛が深かった証拠。
新兵衛の思っていた以上に篠は新兵衛のことを愛していたのです。