さらに言えば、この時点で繭子はすでに辰也のことをある程度見切っていたと考えるのが妥当です。

このとき繭子はすでに合コンに行っています。合コンに行ったということは、二股の意思があったということです。

これがただ寂しさを紛らわすためであれば、妊娠を機に辰也との仲をきちんと戻そうとしたかもしれません。

結婚の話が出るのであればなおさらです。

しかもこの時点で、辰也はまだ美弥子との関係を始めていません。

繭子は辰也との関係に、美弥子ではないほかの理由で見切りをつけていたのです。

繭子はなぜ二股をしたのか

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繭子が合コンに行った1987年7月10日は、辰也が彼女に指輪を贈ってからわずか8日後。

順調に見えていたはずの2人の仲。繭子は何を思って合コンに行き、二股をかけるに至ったのでしょうか。

繭子の不安

まず考えられる説は、寂しかったから。

繭子は恋人と常に側にいたい性格で、遠距離になってしまった寂しさから合コンに行ったのではないか。

確かにそのような理由で浮気をしてしまう人間は一定数、現実にも存在します。

しかしこれは、裏返せば現恋人への愛情の裏返し。相手の愛情を確かめるという側面を持っています。

わざわざ東京から静岡まで誕生日を祝いに来てくれた辰也の愛情に、繭子はどんな不安を抱いたというのでしょうか。

繭子はおそらく、辰也の人間性に対して自分との未来を思い描けない理由を見出していました。

辰也の暴力性

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辰也は生真面目な性格として描写されています。

第2の“たっくん”こと夕樹も真面目で誠実な人柄ですので、この点も2人を同一人物と錯覚させる共通点です。

しかし、2人の間には決定的な違いがあります。

辰也には暴力的な面があるという点です。

美弥子に近づくために部屋に侵入した海藤を殴り倒したほか、繭子にも手を挙げるシーンがあります。

夕樹にはそのような行動は見られません。海水浴のシーンで、彼のことを繭子は大人だと表現していました。

一方でまた辰也に目を戻すと、彼は落ち着いて見えますが短気で精神的に幼い面も垣間見えます。

そしてその性質を、1年交際を続けていた繭子は見抜いていたのでしょう。

だから妊娠の疑惑を持ったとき、彼女の胸には不安が生じました。

この人と添い遂げても幸せになれないかもしれない。

その考えが、繭子を合コンへと向かわせたのです。

なぜ辰也と別れなかったのか

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辰也に見切りをつけていたのなら、正論で言えば彼と別れてから合コンへ行ったほうがよいでしょう。

しかし繭子はそうしませんでした。

このときの繭子の心理は、文章でつまびらかにするにはちょっと複雑です。

おそらくそこには様々な思惑があります。

一瞬でも恋人のいない期間を作りたくない、男前の辰也を手放すのが惜しいなど。

しかしもし理由を1つ絞って挙げるとすれば、それは辰也と同じことだったのではないでしょうか。

美弥子が辰也と繭子の恋愛を、辰也にとってのイニシエーションなのではないかと指摘する場面があります。

繭子にとっても、辰也との恋愛はイニシエーションでした。

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