話は冒頭に戻ります。ジャックは最初宇宙船と共に地球へ墜落した時、ある不思議な夢を見ます。
その夢にジャックは悩まされていたのですが、果たしてその正体は何だったのでしょうか?
あらすじを振り返りながら見ていきましょう。
ウラシマ効果
ジャックが不思議な夢で見たのは宇宙船の中に居た女性ジュリアであり、後半彼女は自身の妻だと判明します。
しかもジュリアの方は60年もの間ずっと冷凍睡眠という形で眠らされていたことまで判明したのです。
いわゆる形を変えたウラシマ効果であり、ジュリアはジャック49号をクローンと知らず愛してしまいます。
しかし、ジャックは自身がオリジナルではないのにジュリアと付き合っていたことを知ったのです。
このような時の変化に伴い男女の関係が全然違ったものになるという一種のウラシマ効果でありましょう。
そしてそれがラストシーンにも繋がるのです。
胡蝶の夢でしかないラスト
そのウラシマ効果がラストにおいてジャック52号という全くの別人と愛することになるジュリアです。
そこにまるで悲しさも喜びもまるでないのは本作が所詮胡蝶の夢でしかないことの強調ではないでしょうか。
もはやジャックにとってもジュリアにとっても、それが現実か夢かの区別すらつかない状況なのです。
そしてもっといえば、ジャック49号が捨て身で取った責任もどこか冷めた視線で突き放しています。
どこまでが夢でどこからが現実なのか、その境界線がまるでなく淡々と事実だけが進んでいくのです。
そのようなラストだからこそ見た後には不快にもならないが安心もしない落ちになったのでしょう。
海水がなくなった意味
本作ではテットの計画により海水が殆ど吸い上げられ枯渇してしまった状態からスタートしています。
その意味は一つにはテット達がエネルギー源として地球からの水が一番簡単に手に入れやすいことです。
そしてもう一つ、地球から海水がなくなるということは同時に記憶を殆ど失ったジャックそのものでしょう。
人間の殆どは水で出来ているといわれ、記憶に関しても水分でその半分以上を賄っています。
それが殆どないからこそジャックを含む本作の人間のクローンであることの虚しさが際立つのです。
そしてその中で数少ないオリジナルとして登場したジュリアは同じく数少ない「水」の象徴ではないでしょうか。
まとめ
本作を見ていると、SF映画を通してどんどん無機質化している情報管理社会の本質へと迫っているようです。
自分の意志で生きているようで実は全て管理され、全てが偽物の世界で生きていることすら気付かないのですから。
しかし、ジャック達に限らず私たちもまた気がつけばそのような社会の上に生きているのです。
そして今急速にAIが発達している以上そう遠くない将来このような未来が来るかも知れません。
そんな時私たちは本当の意味で自由な心や感情を持った人間で居られるのでしょうか?
SFを通して凄く深い所まで考えさせられた名作として今後も残り続けるでしょう。