この時一人の少女麻美という、後にとんでもない役割を果たすヒロインを救い出すのです。
これはそのまま父が1982年にやったことを今度は更に洗練された形で再現しています。
つまり過去の父親の教訓が時を超えて実現した形となりました。
こうした一つ一つの布石が順番にしっかり積み重なっているのです。
2012年、揃った”正義の味方”
こうしてばらまかれた”正義の味方”は遂に2012年にフィッシュストーリーの力で結実します。
何と宇宙船が埋めた核爆弾にミサイルを命中させる計算を行った天才数学者がかの麻美だったのです。
かつて正義の味方に助けて貰った人が今度は自ら正義の味方として世界の危機を救うこととなりました。
フィッシュストーリーそのものが世界を救ったのではなく、それを介して多くの正義の味方が生まれました。
即ちフィッシュストーリーとは本作における“正義の味方”を生み出す一つの予言の曲だったのでしょう。
そしてそれは決して唐突に生まれるものではなく、昔からきちんと裏で準備されていたものでした。
バンドの思い
本作はパンクバンド逆鱗の放った”フィッシュストーリー”が世界を救うという嘘から出た実の話でした。
ではこの曲に込められた逆鱗の思いとは果たしてどのようなものだったのでしょうか?
彼らの心情をじっくり掘り下げて考えていきましょう。
予祝
まずフィッシュストーリーを作った際、岡崎は最後にこの曲に込めた思いを語っていました。
俺たちがこの時代で届かなかった思いが時空を超えて繋がってるんだ。フィッシュストーリーはいつか世界を救う
引用:フィッシュストーリー/配給会社:ショウゲート
しかもその前に岡崎はこの曲が活躍するような具体的な状況まで設定して伝えているのです。
こうまで未来のことをありありと想像し、実現したことにしてしまうのを日本古来の伝統“予祝”といいます。
谷口のやっていた”予言”もある意味ここに入りますが、こちらはより前向きでポジティブです。
彼ら自身は売れないバンドでありながら、しかしこの曲に込めた未来への思いは本物でした。
だからこそ上記したように時代が変わっても形を変えて受け継がれ、本当に世界の危機を救ったのです。
陰極まって陽生ず
しかし、だからといって最初からこの境地に達したわけではなく、そこには様々な激闘の日々がありました。
彼らが実験的にやっていたパンクという音楽はまだその言葉や概念すらなく理解もされていません。
客とも乱闘し、更にレコーディング会社の岡崎に見出して貰ったものの実績が伴いませんでした。
挙句の果てメンバー同士の揉め合いが起こり、リーダーの茂樹と五郎だけが残るという最悪の事態に。
こうした全然売れない三流としての挫折の日々があったからこそあの曲が出来上がったのです。
正に陰極まって陽生ず、苦しみに苦しみ抜いた者だけが辿り着くことが出来るカタルシスでした。
つまり彼らは魂の修練を潜り抜けてステージを上げたからこそ時代を超える曲となったのです。
真理の錯誤効果
こういう風に何度も嘘をつき続けている内に現実になることを“真理の錯誤効果”といいます。
これは決して荒唐無稽なものではなく、現実でも本当にそのような出来事は起こっているのです。
例えば国民的アイドルの嵐だと、メンバーの一人が”世界中に嵐を巻き起こす”とデビュー当時からいっていました。
当初鼻で笑われたかもしれませんが、しかし今本当に世界中に嵐を巻き起こす程の大ブレイクを生んでいます。