しかし、ルーカスの言葉に反論する当たり現実を見つめようとするエリアスと悪魔の囁きをするルーカスというような2面性も受け取れます。
この辺りにはルーカスの存在を通して相反する精神の葛藤も描いているのでしょう。
母親に対する残虐な行動
双子は母親をベッドに縛り付けて虫メガネで頬を焼くくという拷問を始めます。
さらに来訪者にバレないように口を接着剤で塞いでしまいます。
本物の母親の居場所を尋ねているのに対し口を塞いでしまうのですから、目的に対して矛盾を感じる行動です。
助けを求めて叫ぶ母親の口を塞ぐ意図があったのでしょうが、来訪者が帰ったあとに口を塞ぐのは順序として正しくありません。
そして、これらのシーンで率先して行動しているのはエリアスよりもルーカスです。
幻の存在だったルーカスは、ここにきてエリアスの残虐面を強調した存在になっていきます。
サイコホラーとしての恐怖の象徴は、すでに母親からルーカスへと変化していたのです。
子どもだからこそ思いつくような残忍な行動、それは観る者を予期せぬ恐怖へと落としていきます。
口や目を塞ぐ意図
母親の口はいつも真実を語っています。
言葉不足で子どもに対して強引な部分が強い母親ですが、一貫して間違ったことは言っていません。
そんな母親の目や口を塞ぐ行為は、彼女の口がつむぐ言葉にエリアスの心が揺さぶられたからではないかと考えられます。
口を塞ぎ目を塞いだのは、エリアス自身の間違った行いから目を背けたかった表れだったのではないでしょうか。
サイコホラーというジャンルから考えると、子どもにしか出来なさそうな拷問は予想以上の恐怖を与えてきます。
しかし彼らの行動には視聴者に恐怖を与える以上の何かを訴えていたとも思えるのです。
炎に包まれたラストシーン
エリアスと母親は家屋の火災と共に亡くなります。
家が燃える際に火を放ったのがルーカスであるあたり、ルーカスが二人を迎えに来たようにも感じられます。
そんな彼らの死はエリアスの狂気が生んだだけの結果だったのでしょうか。
エリアスは死んだのか
家が全焼している映像の後、炎に包まれた中でエリアスとルーカスは共に笑っています。
そしてそこにやってくる母親もまた笑顔で彼らの肩を抱きます。
床に張り付けられた母親が確実になくなっていることから、ルーカスとして家に火を放った彼もまた母親と共に亡くなったことが分かります。
見方によってはハッピーエンド
ジャンルスイッチムービーとしてカテゴライズされる本作は、全員が死ぬというバッドエンドと受け取られがちです。
「ファニーゲーム」や「サイコ」のように、終わり方がすっきりしない印象を受ける人も少なくはないでしょう。
しかし、「グッドナイト・マミー」に関してはハッピーエンドと捉えられる部分もあるのが面白いところです。
ルーカスの死によりおかしくなってしまったエリアスに、子どもと向き合い話し合うことをしない母親。
悲しみの詰まった家を売りに出して現実から目を背けてばかりでは幸せな未来は望めないでしょう。
未来が望めない家族の末路として、死という共通項を持って母親と双子は同じ場所にたどり着いたのです。
死の先の世界に3人がそろった姿こそ、彼らの本当の幸せだったとも考えられます。
会話や心のケアの大切さを知る
圧倒的に会話の少ないストーリーの中で、なぜ子供と向き合わないのだろうと感じた人も多いはずです。
エリアスはルーカスという存在を具現化して現実逃避していましたが、精神薬やカウンセリングに頼るような描写は一切ありません。
事故による兄弟の死は9歳の子供には耐えられない事実です。
「グッドナイト・マミー」は、ショッキングな展開で観る人に子どもの知識がもたらす恐怖を感じさせてくれるサイコホラー映画です。
しかしその反面、母親がもっとエリアスと接していれば違った結末を迎えたのではないかと考えさせられる作品でもあるのです。