今までの流れと合わせてこのシーンの意図を読み解いていきましょう。

出世を潰す

悪いヤツほど出世する (日本経済新聞出版)

最初の目的はホーキンスの出世を潰すことにありました。

この辺りは現代にも通ずるブラック上司の職権乱用を暴露される感覚に近いでしょう。

窮鼠猫を噛むとは正にこのことで、それまでずっと虐げられてきた者達からの反逆です。

部下に愛情と敬意をもって接した上司は好かれ、その逆は当然嫌われ追い出されます。

時代が違ったとしてもこうした上下関係のあり方は変わらないのかも知れません。

町へ被害が及ばないようにする

二つ目は目的地として着いた町の人達に自分達が受けた被害が及ばないようにする為でしょう。

これは生まれ育ちが違いながらも差別・迫害を同じく受けてきたビリーと関わった影響です。

もし彼と関わらないままだったらクレアは視野が狭いまま復讐に飲まれていたかもしれません。

しかしビリーと関わったことで自分だけが辛い思いをしてきたわけじゃないことを知ったのでしょう。

第二・第三のクレアやビリーを生まないように町の人達を守る宣言だったのではないでしょうか。

社会全体の問題

ヨーロッパ世界の拡張―東西交易から植民地支配へ (SEKAISHISO SEMINAR)

そして三つ目にこの悪行がイギリスによる植民地支配の悲しき産物であることを代弁しています。

これまで述べてきたことを踏まえれば、本作の悪の正体は社会の仕組みそのものにあるのです。

つまりこの瞬間をもってクレアとビリーの復讐は単なる個人的感情の領域ではなくなりました。

それはまた二人がこの瞬間に社会的弱者からヒーローになるという宣言でもありました。

二人は社会問題の本質を見抜き差別・迫害を乗り越えて真に強い人達へ成長を遂げたのです。

悲しき史実

戦国時代ミステリー: 史実に隠された「もうひとつのドラマ」 (王様文庫)

表向きハッピーエンドに描かれていますが、史実ではこの後純正のアボリジニが疫病で絶滅します。

また、一見復讐心から目的が一致した二人ですが、決して対等な関係にあったわけではありません。

単純な二項対立では片付けられない複層構造と戦争の歴史が画面を重苦しく支配しているのです。

本作は決してその史実を否定しているわけでも、かといって肯定しているわけでもありません。

あくまでも娯楽作とした上で一人一人に民族同士の差別や歴史を考えさせる取っかかりとしたいのでしょう。

差別・迫害は未だに根深く残り続けており、人間が生きていく上で向き合うべき永遠の課題なのです。

まとめ

オーストラリア―多文化社会の選択 (岩波新書)

本作は”復讐”を中心に様々な差別・迫害と個人の情念をやや複雑に提示した作品です。

故に安直な二項対立でも勧善懲悪でもなく、かといって抽象度が高すぎることもありません。

確かに万人受けはしにくいですが、一方で復讐劇としての娯楽性もしっかり担保されています。

クレアとビリーの生き方は理想ではありませんが、オーストラリア社会を動かすに至ったのでしょう。

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