自分の感情に素直になり声を出した順でしたが、これで告白まで成功しては物語としての重みがありません。
現実は決して夢に描くような王子様とお姫様の話にならず自分の力で勝ち取ってこそ意味があるのです。
ここで初恋が実らなかったことで初めて順は年相応に成長出来たのではないでしょうか。
母が順の歌に号泣した理由
初告白は玉砕だったものの、成長を遂げた順と拓実は見事にラストシーンを演じきりました。
ここで順の母は娘の歌に思わず号泣してしまうのですが、果たしたそれは何故でしょうか?
娘が本来の自分に戻った
まず一番の理由は声を出せなかった順が自分の声を取り戻して本来の自分に戻ったからです。
母はずっと世間体を気にしていましたが、一番望んだことは「良い子」の順ではありません。
自分の声で自分を表現し、ありのままに生きてくれることをこそ母は願っていたのでしょう。
その潜在意識の願望が順の歌声という形で現実となり、押さえ込んでいた蓋が外れたのではないでしょうか。
頭で考えたことは嘘をつきますが、体で感じて反応したことは嘘をつきません。
娘が本来の自分を取り戻したことで、母親もやっと本来の自分に戻れたのです。
毒親からの解放
二つ目に母親もまたそんな順を見て毒親から解放されたからではないでしょうか。
彼女が順に当たり散らしていたのは世間体と仕事の忙しさから来るものでした。
そこには恐らく娘が原因で離婚する羽目になった恨み辛みも多少はあるでしょう。
そうした様々な思いが母を毒親に仕立てて順の性格を歪めてしまう原因となっていました。
それが本来の自分へ戻った順を見たことで娘をそこまで追いやった罪悪感となったのでしょう。
つまりこの涙は母自身の懺悔の涙でもあるのではないかということが家庭事情から窺えます。
否定から肯定へ
三つ目に娘の順を見たことで母の意識も否定から肯定、即ち“せい”から”おかげ”に変わったからです。
どちらも物事の理由を意味する言葉ですが、前者が否定で後者が肯定のニュアンスとなります。
悪いことは誰かの「せい」、そして良いことは誰かの「おかげ」という形で使い分けているのです。
だから本当の自分に戻った順を見たことで母の思考も肯定的なものへと大きく変わりました。
人間本当に物事が良くなるかどうかは周囲の環境をどう捉えるかで全く違ってきます。
ここで娘を肯定出来るようになったことで母もまた真の親に成長したのではないでしょうか。
拓実が暴言に感謝した理由
上記したボロボロのホテルで告白前に順は拓実への罵詈雑言を容赦なく吐き出します。
勿論それは拓実の許可を事前に得てのことですが、しかし彼は彼女の暴言に感謝するのです。
普通に考えれば暴言を吐かれたことに感謝するなんて出来ず、反論しそうになります。
そうしなかった理由をあらすじを追いながら読み解いていきましょう。
自分を見つめ直すことが出来たから
まず拓実自身が自分の欠点を指摘して貰うことで自分を見つめ直すことが出来たからです。