当たり前だと思ってきたことに対して、急に「それは悪いことだ」と指摘されても納得できないというのも無理はありません。
そのショックの大きさにやられたからこそ、自分の悪い点を自覚したとき、周造は離婚届にサインするのでした。
バラされた浮気
家族会議で、最も周造が憤慨した瞬間が浮気現場をリークされたときでした。
それまでの自分の生活について指摘されたばかりでなく、世間一般でもアウトとされる浮気を報告されたのです。
ここまでくると、いくら周造といってもぐうの音も出ません。
富子の気持ちが離れたこと、生活習慣の改善、浮気の理由の説明と謝罪、これらを考えたとき周造が出した答えが離婚なのでした。
重なる自分の人生
離婚を覚悟して届けにハンコを押していた周造は、なぜか『東京物語』を見ていました。
上京した年老いた両親とその家族たちの姿を通して、家族の絆、夫婦と子供、老いと死、人間の一生、それらを冷徹な視線で描いた作品
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/東京物語
この『東京物語』のストーリーは、まさに現在の自分に重なるものであり、感傷に浸れるものなのです。
家族関係
『東京物語』の主人公平山周吉(この時点で平田周造とかなり重なる)は、妻のとみとの間に五人の子どもがいます。
子どもは長男、長女、次女とおり、それぞれみな結婚している設定です。さらに、長男夫婦の間には二人の孫がいます。
周造の家族関係から考えても、かなり酷似していると言えるでしょう。
同じ家族関係の周吉に、周造は自分の姿を重ね合わせて映画を観て、そこから自分の置かれた状況に感傷的になるのでした。
妻がいない人の人生とは?
『東京物語』の周吉は、映画の中で妻のとみを失くしています。
子どもたちとは違う所に住む周吉は、最後に哀愁漂う姿を見せました。周造はその周吉に自分を重ね合わせるのです。
妻がいない人生とは。悲しみがあるのか。自分の人生今後どうなるのか。
そんな予行演習を兼ねて、周造は『東京物語』を観ているのでした。
周造の危機を目の前にして…
映画ラストで、周造からもらった離婚届を破り捨てた富子。
あれだけ離婚していたがったのに、なぜ離婚届を実際に貰うと破ってしまうのでしょうか。
それは周造が家族会議で倒れたときに富子が見せる姿で、かなりの部分を説明できます。
45年の年月
周造と富子は45年の結婚生活を送っています。
これだけ長く付き合ってきた人が目の前で、倒れている。それを見た直後、富子は寝込んでしまいました。
つまり、富子にとって離婚したい周造の倒れる姿を見て「最後かもしれない」と感じたのです。
確かに、周造も富子もこの先何十年も生きることはないでしょう。
危機的状況の周造を富子が目の前で見たとき、富子は改めて周造が残り少ない人生であることを悟ったのです。
それは45年もの長い期間夫婦生活を送り続けてきたからこそ感じたものでした。
動揺する富子
周造が倒れたとき、その富子の表情を見ると明らかに動揺をしています。
周造のことを心配になる気持ちと、その周造を「自分が追い詰めたのではないか」と責任を感じるのでした。
責任を感じるとともに、富子は「この人を最後まで見送らなくては」という気持ちが芽生えます。
もちろん、このときはまだ離婚を取り下げる決意は固まってはいないでしょう。