雅人は確かにろくでもない人物でしたが、父親らしいところもありました。
キャッチボールやスイングのフォームを指南してくれたり、甲子園球場に連れて行ってくれたり。
野球を教えてくれた雅人はコウジにとって優しい父そのものだったのです。
そして、この時間がコウジにとっては父親との親子の絆だったのでしょう。
父親と野球をするというこんなにささやかなことでも、幼いコウジにとっては父親を慕うのに十分な理由だったのです。
不器用にしか示せなかった雅人の愛情
一見するとひどい父親という印象の雅人ですが、実は家族に対して深い愛情を持っていました。
そんな雅人の不器用な愛情が分かるところを見ていきましょう。
失踪したのは家族のためだった
雅人の失踪は一見すると家族を捨てて借金から逃げたという風にみえますが、実は家族のためにいなくなったのではないでしょうか。
毎日借金取りが怒鳴り込んでくる生活は、かなり辛いものです。もしかしたら、家族に直接的な被害がいくかもしれません。
自分のせいで家族に迷惑をかけている、のらりくらりと生きている雅人も心の奥底では常々そう思っていたのではないでしょうか。
カッコいい背中見せたってもええんちゃうか?
引用:blank13/配給:クロックワークス
ある日、取り立てのヤクザから言われたこのセリフが、雅人に失踪を決意させたのでしょう。
借金を返すことはできなくても、自分がいなくなれば家に借金取りが来ることはなくなる。
雅人ができる精いっぱいのカッコつけは、失踪して借金取りが取り立てに来る生活から家族を解放することでした。
雅人は、家族を愛するが故に失踪することを選んだのです。
死に際に渡されたお小遣い
コウジが2回目のお見舞いに行った時に、雅人はお小遣いだと言ってお金を渡します。
この行動にも、雅人の不器用な愛情が表れているのです。
すでに成人して働いているコウジには、親からお小遣いをもらう必要がありません。
それでも雅人がお金を渡したのは、おそらく雅人の中でコウジは13年前の幼い子どものままだったからです。
小さい頃はお小遣いをあげるなんてことはできず、苦労をかけてしまった…。
自分の死期を悟った雅人は、最期に子どもの頃の罪滅ぼしと父親らしいところを見せたかったのだと思います。
洋子に送られた離婚届けと指輪
死の間際に、雅人は洋子に記入済みの離婚届と指輪を郵送しています。
離婚届を送るということは冷たく見えるかもしれませんが、雅人にとっては洋子に対する精いっぱいの愛情だったのです。
これからは自分に縛られずに自由に生きて欲しい、そういう願いを込めてこれらを送ったのではないでしょうか。
ずっと持っていた作文
雅人の愛情が一番わかりやすく表現されていたのは、雅人がコウジの書いた作文をずっと持っていたことが分かったシーンです。