また、母だけではなく父は逆にかわいい子には旅をさせよの精神でのび太の家出に理解を示します。
これは時代の推移によって親と子供がより近しい距離感で接するようになったことの表れでしょう。
それは勿論ククルの両親の関係性にも適用され、のび太たちはククルと両親を見て自分たちのことを見直すのです。
のび太に寄り添うタイムパトロール隊員
二つ目に愛着をもって育て上げた伝説の動物達との別れを惜しむのび太に寄り添うタイムパトロール隊員の姿です。
このシーンもまた原作・旧作では描かれなかったドラマチックなシーンへと仕上がっています。
決してのび太の気持ちを否定することなく受け入れ、あくまでも判断をのび太に委ねる形にしていました。
かつては一方的で距離感のあった大人と子供の関係性がより近く双方向性のあるものとなっているのです。
このシーンがあることでのび太たちの成長と自立の意味合いがより深まる結末となりました。
一人では生きていけないのび太たち
そして何より一番大人と子供のテーマが色濃く描かれたのは雪の中で意識が薄れていくのび太でしょう。
ここで彼は自分の心の声であるもう一人の自分に諭される形で人は一人では生きていけないことを学びます。
そして何より子供が嫌いな親は居ないし親を嫌いな子供も居ないのだということを自覚したのです。
自立とは何もかも一人で背負うのではなく、仲間達が居てこそだと知って漸くのび太は真の成長を遂げます。
ここに気付くまでの過程を冒険を通して描いたことにこそ本作の本作たる所以があるのです。
衰退と停滞
成長と自立を見事に果たしたのび太たちのアンチテーゼたるギガゾンビは「衰退と停滞」の象徴です。
彼は最後まで成長しようとせず停滞し、ヒカリ族を衰退・全滅させようとしました。
これが同時に本作の真の悪が何なのか?をも示しており、それがのび太たちに勝てない要因です。
またそれ故にギガゾンビは最後まで周りに誰も居ないのに対してのび太には周りに素敵な仲間たちがいます。
いつの時代も悪が負けるのは決して悪だから負けるのではなく悪の精神性故に負けるということです。
その普遍的な真理を物語としてきちっと提示したことこそ本作の神髄ではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本作はリメイク作として一つの理想というか到達点ともいえる見事な回答を提示しました。
見事な成長と自立を果たすのび太たちとは対照的に衰退していくギガゾンビの姿。
そしてそれに伴い示される”誕生”と”破壊”など諸要素を非常に綺麗に融合させたのです。
しかし、本作は単独でその完成度が成り立っているわけではありません。
それだけ深い作品に出来る設定と物語の素地の豊穣さを提示した藤子F先生の原作があってこそです。
のび太たちがククルたち祖先の偉大さを知って成長したように先達への感謝と敬意を失わないこと。
子供たちだけではなく大人にとっても深いメッセージとテーマが盛り込んだ名作ではないでしょうか。