出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B081Q55TLR/?tag=cinema-notes-22

映画『こはく』は2019年に公開された横尾初喜監督自身の体験談を元に描かれた作品です。

脚本は守口悠介、音楽が車谷浩司、撮影が根岸憲一とスタッフにはかなりの実力者が揃っています。

キャストもまた主演の井浦新の兄役をアキラ100%が大橋彰名義で演じたこともちょっとした話題です。

監督の故郷である長崎県を舞台に生き別れとなった父を探して歩く広中兄弟の姿が描かれています。

本稿では兄弟が父を探した理由をネタバレ込みでじっくり考察していきましょう。

また母は父について話したがらない理由や父を見たという章一の証言の真相も読み解きます。

家族と孤独

「家族」という名の孤独 (講談社+α文庫)

本作は「家族と孤独」というとても普遍的な要素に横尾監督が真正面から挑んだ作品です。

全体としての見所は同じ家族であってもそれぞれに全く違う複数の思いが交錯していること。

特に幼き頃に蒸発した父を巡る兄・章一と弟・亮太の想いの違いは絶対に見逃せないポイントです。

愛し合った家族がある時突然バラバラになり、また一緒になったかと思えばまた孤独になっていく。

正に綺麗事で割り切れない家族の思い出が鮮やかな琥珀色になるまでの物語となっています。

兄弟が父を探した理由

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本作の物語の縦軸は父を探す兄弟のことですが、2人は自分たちの仕事を持ち別々に暮らしていました。

そんな2人がどうしてまた父を探そうと思ったのかをあらすじを追って見ていきましょう。

きっかけは章一

最初のきっかけは章一が実家に帰ってきた時に亮太に尋ねた一言です。

父さんのことどう思ってる?俺は恨んどる。「絶対に迎えにくる」、そう言ったのに…

引用:こはく/配給会社:SDP

この台詞は横尾監督自身が実の兄から自身の父のことを「恨んでいる」と聞いたことが元になっています。

面白いのは本作において「動」の部分を担っているのが兄・章一であるということです。

弟・亮太はそんな兄の主張を受け止めて動く、どちらかといえば「静」の立ち位置にいます。

だから父の仕事を受け継ぎ父への想いはありつつもわざわざ探そうとまでは思いません。

表の主人公は亮太でありながら真に主人公らしいのは寧ろ章一の方ではないでしょうか。

父と晃子との関係性

2つ目は亮太が職場の先輩である宮本から晃子という女性職員の失踪を聞かされたからでした。

真相を知らない2人、特に兄・章一の方は父と晃子が浮気・不倫の関係ではないかと疑い出したのです。

こうなればもう疑心暗鬼に陥る他はなく、しかも母が黙秘していることが事態をややこしくします。

週刊誌レベルのスキャンダル程度の騒ぎですが、兄弟にとってはそれが大きな問題に思えたのでしょう。

こうして事態はどんどんよからぬ方向へ進んでいってしまいます。

心の時計がずっと止まっていた

心の時計/終章(エピローグ)

そして決定打となったのは幼い頃に公園で父が2人に聞いた次の質問でした。

お父さんとお母さん、どっちについて行く?

引用:こはく/配給会社:SDP

ここで兄弟は「お母さん」と答えるのですが、大人になってまで普通子供の頃の感傷には浸りません。

これは即ち父が蒸発した日から亮太と章一の心の時計がずっと止まっていた証左ではないでしょうか。

お互い気持ちに温度差はあれど、幼少期の記憶がトラウマとなっている点は共通しています。

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