こんな悲惨な状況でまともな家族ぐるみのお付き合いは不可能ではないでしょうか。
本心ではなかった
突き詰めるとこの婚約自体がジャネットの本心ではなかったということです。
それは冒頭の会食のシーンで家族について聞かれた時に分かります。
この時ジャネットは咄嗟に父がエンジニアで母が画家などと嘘をついてしまうのです。
こんなバレバレの嘘をついた時点でジャネットはデヴィッドに合わせて生きようとしています。
本当にデヴィッドとの結婚を望むなら自分の両親や過去のこともきちんと話しておくべきでしょう。
万が一それで引いてしまうようであれば所詮デヴィッドはそこまでの人だということです。
だから序盤の嘘をつくシーンで2人は結婚まで至らないことは示されていました。
ガラスの城が表わすもの
タイトルにもなっているガラスの城は父が家族に建てると約束したものでした。
その夢は結局実現しなかったのですが、果たして何を表わしているのでしょうか?
ニューヨーク都市開発への反発
まず背景設定としてニューヨーク都市開発への反発がありました。
幼少の頃に一家揃って寂れた山奥の家を買い取って住んだこともその現れです。
レックスは何としても自分の考えが正しいことを証明したかったのではないでしょうか。
しかも図面までしっかり拾い出して設計されていたのですから本気だったことが窺えます。
結果として絵に描いた餅で終わりましたが、それが理想だったのでしょう。
脆さ・危うさの象徴
2つ目に考えられるのはガラスという言葉の持つレトリックです。
「ガラスの十代」「硝子の少年」という場合のガラスは脆さ・危うさの象徴を意味します。
そして「城」とは立派な志・理想というガラスと相反するような響きの言葉です。
これは即ち理想は立派だが口だけで実行が伴わないウォールズ家の姿そのものでしょう。
表面上の体裁だけは立派ながら実態はボロボロで少しつつくと簡単に壊れてしまう砂上の楼閣。
それがこの言葉に揶揄・皮肉として込められているのではないでしょうか。
肉親の悪行を許す物語
直接の関連性はありませんが、本作の構造は漫画『ガラスの城』のそれと似ています。
こちらは姉の陰謀に巻き込まれて転落人生を歩んだ妹が最後に悪行を重ねた姉を許す物語です。
その構造をやや形を変えて換骨奪胎として取り入れたのが本作ではないでしょうか。
即ち父から散々な仕打ちを受けた娘が父の死に際になって父の悪行を許し受け入れる。
そのような構造が奇妙な程一致しており、見方次第では意識的な本歌取りを行ったとも取れます。
ジャネットが気付いた父の愛情
物語の結末は最後ジャネットが父の愛情に気付く形で幕を閉じます。
あれだけ父にあきれ果て、絶縁まで口にしたのに最後は父を許すのです。