出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07PMGFXWB/?tag=cinema-notes-22
映画『ファントム・スレッド』は2017年のアメリカ合衆国のドラマ・ロマンス映画です。
監督はポール・トーマス・アンダーソン、主演がダニエル・デイ=ルイスとなっています。
音楽がジョニー・グリーンウッド、更に衣装デザインがかのマーク・ブリッジスと豪華絢爛なメンバーです。
1950年代のイギリスを舞台にオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックとアルマとの恋を描いています。
文芸とビジュアルの双方から非常に高く評価され、以下を功績として受賞・ノミネートしました。
アカデミー賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞・作曲賞ノミネート、衣装デザイン賞受賞
ボストン映画批評家協会賞 作品賞・監督賞・作曲賞受賞引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ファントム・スレッド
本稿ではラストでアルマがレイノルズに膝枕する結末の意味をネタバレ込みで考察していきましょう。
また、レイノルズがアルマへプロポーズした理由やアルマが毒キノコを食べさせた目的も読み解きます。
名優ダニエル・デイ=ルイス、その栄光と終焉
本作を考察していく上で、まず外せないのは主演のダニエル・デイ=ルイスの引退宣言です。
ハリウッド映画を牽引してきた名優が1人、映画界に戻らないと宣言したのは世界中に衝撃を走らせました。
ルイス氏自身もこれは全く予期しておらず、作品を作っていく中で徐々に悲しい気持ちが襲ってきたとのこと。
その心中は受け手には想像に余りあるものですが、興味深いのはその様が主人公のレイノルズと重なることです。
ファッション界を牽引する完璧なデザイナーの生き様とルイスの役者人生の終焉とが奇妙に重なります。
この作品世界と現実の奇妙なシンクロは映画史において非常に象徴的なのではないでしょうか。
そんな名優の栄光と終焉を受け止めつつ、改めて本題を考察していきます。
膝枕する結末の意味
本作のラストは薄れゆく意識の中で何事か呟くレイノルズに膝枕をするアルマで締めくくられます。
非常に微笑ましい夫婦のように見えるこの結末は果たして何を意味しているのでしょうか?
物語の流れを踏まえながら考察していきましょう。
支配
結論からいえばこの膝枕が意味するものは「支配」であり、穏やかな結末ではないのです。
これはアルマが食事などの間接的な方法でレイノルズを支配する締めの段階に相当します。
アルマの中にあったのは何が何でもレイノルズを自分の支配下に置いて従わせることです。
2人の夫婦仲は決して円満なものとはいえず、それぞれが求めるものにズレがありました。
そのズレが修正されることなく歪んでいった結果がこの膝枕を生み出しているのです。
何とも悍ましい話ですが、アルマはこの膝枕をもってレイノルズを自分のものにしました。
認識のズレ
何故このような結末が生まれたのかというとレイノルズとアルマの間にあった認識のズレです。
そもそもレイノルズはアルマを女性として強く意識していたわけではありません。
あくまでも理想の体型を持ったモデルというだけで、仕事仲間以上の感情がないのです。
一方のアルマは単なる仕事仲間では満足せずレイノルズの全てを欲するようになりました。
求めるものがそもそも根底からズレている為長期で見たときに歯車が噛み合わなくなるのです。
かといってそれをどちらか或いは両方が歩み寄って解決する努力もしないまま引きずってしまいました。
目先だけで考えても決していい結果にはならないことをよく示しています。