無論階段の数字にも意味があり、9が「終わり」であり1が「始まり」なのです。
その中でダニエルはマルコ刑事としての職務を果たし足を負傷したカルロスは死んでしまいます。
そう、変化を多少なり繰り返しても大人の仕事は全てこの繰り返しでしかありません。
気がつけばマルコ刑事はロベルトと全く同じことを経験していることに気付くのです。
そして気付いた時にはもう死の直前というのが人生とは何かを端的に示しています。
冒頭とラストの繋がり
本作の冒頭では意味深にエスカレーターを降りる花嫁姿の老婆のカットとなっています。
そしてラストはホテルマンとして働くオリバーが新婚夫婦と共に無限ループへ巻き込まれるカットです。
果たしてこの2つのカットの繋がりは何なのでしょうか?
オリバーと花嫁の無限ループ
まず冒頭のシーンはラストで示されたカール(元オリバー)と花嫁の無限ループのラストでしょう。
これが起こったのは2052年ですから冒頭のカットはその35年後の2087年であると推測されます。
詳細は示されていませんが、新郎が途中で死に老人となったカールが花嫁に伝言をして亡くなったのでしょう。
即ち、ラストシーンからまたもや冒頭に向かって新しい35年分のループが空白として存在しているのです。
そしてこの無限ループから逃れることは当事者である限り絶対不可能という恐ろしい鉄則があります。
繰り返される無限ループ
2つ目に老婆となった花嫁もまた別の人となってまた別の無限ループへ入ることが想像されます。
その時もまた1980年、2017年、そして2052年のループと同じような流れとなる筈です。
ここが本作の肝であり、劇中で描かれる出来事は繰り返される無限ループのごく一部でしかありません。
1つのループが終わればまた次のループが始まり、それが終わればまた別の人が別のループを繰り返すのです。
このような果てしない広がりと立体感を持たせているのが本作のよく出来た構造ではないでしょうか。
円環構造
そしてもう1つ、本作のラストと冒頭の繋がりが実は2052年の非常階段と同じ仕組みになっているのです。
即ち9階=ラストシーンが1階=冒頭と繋がっているという円環構造の整合性を見事に成立させています。
誰かの人生の終わりは同時にまた別の人の人生の始まりを意味するということではないでしょうか。
ロベルトから始まった物語はダニエル、オリバー、そして花嫁という人生のバトンとして受け継がれていきます。
確実に時の流れを刻みながら、実は誰しもが無意識に他者からバトンを受け継ぎ自分の人生を生きているのです。
2段階に分けて描かれているのも正にそうした人生の仕組みそのものに準えられているからでしょう。
末恐ろしいアプローチでありながら、実に的確に人生のエッセンスを立体的かつ論理的に描写しています。
35年の月日がもたらすもの
35年ものループする月日は前述したように、関わった人の人生に様々な変化をもたらします。
改めてどのような変化が生じるのかを読み解いていきましょう。
物資の無限増加
まず1つ目に自動販売機のジュースの数など、どの時間軸でも物資が無限に増加していきます。
そんな中でもどんどん年老いていくこの構造は人間の物欲に対する揶揄ではないでしょうか。
毎日山のように物を消費しそれが当たり前だと思い込んで歳ばかりを経ていく人間の虚しさ。