どちらも鹿野の「止めてほしい」という真意を理解せず、自分の価値観や世間体に基づいた表面上だけの言葉といえるのです。
しかし小坂の大胆な行動に、恐怖のあまり「今の自分では無理」と立ち止まる鹿野も勇気を与えられます。
小坂もまた、そんな鹿野の背中を押しながらも、自身も未来を見据えはじめていました。
そのため、たとえ絶望していたとしても、誰かが側にいれば変われるというメッセージが隠されているのでしょう。
自分の欠点を見つめ直すことの大切さ
地味子ときゃぴ子は、性格や雰囲気が正反対のペアですが、幼い頃から育まれた揺るがない絆を持っています。
作中では主に、彼氏からの愛情を求め続けるきゃぴ子の人間性について描かれていました。
恋人を作っては愛を伝えるきゃぴ子ですが、ことごとく振られてしまうのです。
その理由は、きゃぴ子は彼氏から愛してもらうために可愛い自分を押し付けてしまっていることが考えられます。
きゃぴ子は振られた際、彼氏が何を望んでいたのか、自分が彼氏に与えられるものは何かを考えることがありません。
実際に作中では、きゃぴ子の彼氏が「きゃぴ子は可愛い。ただそれだけだよ」と言い残して別れています。
自身の欠点や足らない部分を見直さず、ただ一方的に誰かからの愛を求め続けるきゃぴ子を不安に思う地味子。
地味子は、きゃぴ子を虐めるクラスメイトに対し「きゃぴ子は可愛いよ」と怒鳴りつけるほどの強い心の持ち主です。
そんな地味子の強くも優しい言葉に、きゃぴ子は自分の嫌いなところにも目を向けられるようになりました。
きゃぴ子と地味子の関係性は、周りの声に耳を傾け、自分自身の欠点と向き合うことの大切さを伝えているのでしょう。
これからを生きていくことの大切さ
八千代と撫子は、恋愛に対する積極性に差があるペアですが、時間の経過とともに絆が深まる様子が表現されています。
初めて出会ったときから八千代に一目惚れし、一方的に愛を伝える撫子。
それに対して八千代は、最初こそ撫子の告白に無関心でしたが、時間を共有していくうちに撫子に心を開いていきます。
八千代が撫子の告白にたいして無関心であった理由が、彼の心に渦巻いていた過去の出来事にあると考えられるのです。
八千代はかつて「さっちゃん」という女子生徒に好意を寄せていました。
しかし、彼女から言われた「あんたみたいな子供にはわからない」という暴言を浴びせられます。
ここから考えると八千代は、過去に言われたさっちゃんの言葉に囚われ、大人な自分であろうとしたのでしょう。
「大人の自分」は、一時の感情に振り回されないものだと思ったために、撫子に対して無関心な素振りを取ったのです。
デート中に幸ちゃんと再開した時も、過去を思い出しながらもあくまで彼女の友人としての立場を貫いていました。
そんな八千代も次第に撫子を好きになり、彼女から「大丈夫」と言われたことで、これからを考えるようになります。
過去の体験は、時として相手の人格を変えるほどの深い傷を心に残してしまう場合もあるでしょう。
八千代と撫子の在り方は、苦い過去に縛られずに大切な人との未来を生きることの大切さを伝えていると考えられます。
まとめ
世紀末によるSNSの4コマが原作の映画「殺さない彼と死なない彼女」。
考え方の異なる3つのペアによる、不器用ながらも素直な愛情表現の数々は、学生らしい初々しさが表現されていました。
原作ではそれぞれのペアの話が3つの恋愛物語として独立しており、映画とはまた違った雰囲気や展開があります。
ぜひ、原作漫画と見比べながら観賞してみましょう。