それだけとても強く気高い心の持ち主であったことを改めて思い知ったのです。

ここに本作の「父性とは何か?」が解答として示されていることが窺えます。

本作における父性とは己を厳しく律して家族を守れる強さのことではないでしょうか。

シュンにだけ真実を伝えていた理由

真実

そんな弱みを見せなかった父・日登志ですが、実はある秘密がありました。

それが何と妻のアキコには別に夫が居るという不倫だったのです。

普通なら慰謝料諸々の裁判沙汰になりそうですが、父はその全てを受け入れました。

そしてその秘密を何故かシュンにだけは真実として共有していたというのです。

ここではその理由を考察していきましょう。

同じ登山家であった

太陽のかけら ピオレドール・クライマー 谷口けいの青春の輝き

まず1つ目に、シュンは日登志と同じ登山家であったというのがあったのではないでしょうか。

日登志はいわゆる昔気質のストイックな父親像で、弱みはなるべく見せたくない人です。

しかし、そんな彼であってもやはり自分の素を曝け出せる相手は居て欲しいのが心情です。

そこで、同じ登山家として共有出来る価値観のあるシュンがその相手だったのでしょう。

結果としてその出来事が彼を家族から離れさせる元になってしまいました。

そのことも恐らく父は覚悟の上で話したのではないかと推測されます。

肉親ではないから

2つ目に、残酷な事実としてシュンは日登志の肉親ではなく他人だからです。

20年前に日登志とアキコは再婚しましたが、その時シュンだけがアキコの連れ子でした。

そう、日登志がシュンにだけ自分の弱みを見せられたのは血のつながりがないからです。

麟太郎や美也子は肉親ですので、この事実を話してしまえば疑いを持たれかねません。

そうなれば、家族の関係性に亀裂が入り破綻しかねず、実際2人はアキコを憎みました。

アキコが追い出されないようにする為に、自分の息子と娘には話せなかったのです。

衝撃を和らげる

そして3つ目に、麟太郎と美也子が真実を知った時の衝撃を和らげる為ではないでしょうか。

シュンが先に真実を知っておくことで、まずシュンが受け止め咀嚼・吸収する時間を作ったのです。

その上で日登志の死後に改めて麟太郎と美也子に話すことで家族への衝撃を最小限に押さえました。

これがもしシュン以外の麟太郎と美也子にも先に明かしていたら、アキコの居場所がなくなります。

不倫という穢れた形の再婚であり、本来アキコは慰謝料を取られて訴えられてもおかしくありません。

しかし、不倫を承知の上で尚アキコはきちんと家族に対して懸命に尽くすという筋を通しました。

だからこそ日登志はその覚悟に免じて、息子達に受け入れて貰えるよう段取り根回しをしていたのです。

日登志の遺言の意味

遺言。(新潮新書)

完璧超人じみた父親である日登志ですが、そんな彼は「料理は私が作る」との遺言を残していました。

そして本当に生前の手料理を息子達にご馳走する形になったのです。

果たしてこの遺言にはどのような意味があったのでしょうか?

真実に迫っていく

まず1つ目に、手料理を順番で出すことで真実に迫っていく構造です。

その料理を食べることで亡き父との思い出が必ず蘇るように作られています。

特に餃子におけるアキコの不倫の衝撃は苦い思い出となっているのです。