また、小栗旬や菅田将暉などの人気若手俳優、橋本環奈などの人気女優もメインで起用したことから、演技をする「人」目当てに作品を観るなど、単なる少年漫画の実写化映画で終わらない作品となりました。
ただそのファン層の厚さゆえか、「考えさせる」のではなく「伝えたいことは言う」スタイルになっており、そこがアカデミー賞などには結びつかなかった原因でしょう。
土方十四郎
新撰組の土方歳三をモデルにされたキャラクターではありながら、もはや銀魂の中での「土方さん」として成り立っている人物です。
まずは彼の気持ちについて考えていきましょう。
伊東への想い
「そいつを先生と呼ぶのはやめてくれねえかい」
引用:銀魂2 掟は破るためにこそある/配給会社:東宝
このセリフから口火を切られたように見える、伊東との因縁のはじまりとも呼ぶべきケンカですが、実は伊東はアマントが開発して途中放棄したマイクロチップを使って既に先手を打っていました。
ただこのセリフは、「隊長である近藤が一隊士にかしずいては、他の隊士に示しがつかない」という副長らしい隊士たちへの配慮と、「自分の慕う近藤が知らない誰かと親しそうに話すのを見たくない」という私情との両方が込められているでしょう。
廊下でのすれ違い時には、以下のようにも言います。
邪魔どころではなく殺したい
引用:銀魂2 掟は破るためにこそある/配給会社:東宝
隊士から「副長は戦術だけだが伊東は戦術も政治もできる」と噂されるシーンもあります。
ですが伊東へは実のところ政治もできることへの憧れではなく、はじめから近藤の生命を脅かす人物としての敵対心の方が強かったのでしょう。
伊東が現れた夜にすぐさま、近藤に伊東除名の直談判を行ったことからもそれは明らかです。
武士としての心を重んじる土方は、副長の地位を奪われるかもしれないという危惧よりも、真選組全体の未来を見据えていたことでしょう。
そしてその未来は近藤を中心とする隊の未来であり、そこに伊東は隊を乗っ取りうる邪魔者として映ったのです。
ただしそこには、同族嫌悪としての嫌悪感や警戒も充分に込められていました。
自分と似て実力もあり戦術も練れて近藤からの信頼も厚い伊東が憎く、そして物語が進むにつれ、精神的にはとても未熟な伊東へ憐れみすら抱くようになります。
もし伊東が2次元アイドルオタクのマイクロチップを使っていなければ、2人の争いはもっと激しくなっていたことでしょう。
伊東鴨太郎
他の物語では登場しないながらも、今回の映画ではもはや主役と呼んでも差し支えのない主要人物です。
彼について触れないと、物語も解説も始まりません。
土方への想い
物語の鍵を握る伊東は、はじめにマイクロチップで土方を封じます。
それは、土方は真選組を奪取する時に邪魔になると判断したから、つまり土方の実力を認めているからなのです。
近藤へ剣術や戦術を教えたというだけあって頭脳明晰で実力も伴う文武両道な人物ですが、何をしても満たされない空虚な心を持っています。
土方への憎しみや殺意も、同族嫌悪や邪魔者を排除するという合理的な考えの他に、どうして自分が持っていないものを「こいつらごときが」持っているのだという行き過ぎた羨望があったことでしょう。
冷徹で感情を捨てた人間と自ら言いながら、作品内では1番人間らしく描かれた人物でもあります。
真選組の隊士を「伊東派」「土方派」と分け、隊士や裏で繋がっている鬼兵隊をも駒扱いする点は、彼の冷徹さを引き立てるために描かれた部分です。
しかし、高杉との会話周辺では、承認欲求の高い「平凡なただの人」として描かれています。
「殺したい」とまで言った土方に対し最期には「ありがとう」と言っていること。
これが映画を観た人々の心に響いているのは確実です。
物語全体の伏線
「ありがとう」の一言に込められた想いを読み解くには、きっちりと映画中での伏線を理解しておくことが重要です。
何度もハモる言葉
土方と伊東との会話では、同じセリフを両者が口にするシーンが何度も描かれます。
これはただのハモリではなく、同じことを考えていることを観た人に強く印象付けるための一種の技術です。
2人が互いに、相手に対して同じ感情を抱いていることを示唆すると同時に、2人が実は似た性格であることを示しています。
立場が違えば、出会いが早ければ、親友となることも可能だったでしょう。
そこは時代ゆえの悲劇ともいえます。