ドミニカ一人であればもっと穏やかな普通の道を選ぶことも可能でした。
彼女は普通の女性としての幸せを犠牲にしましたが、ロシア国家の庇護のもとで母親の十分な介護をすることを可能にしたのです。
ドミニカが成し遂げられなかったこと
では彼女は自分の目的を全て達成することができたのでしょうか。
彼女は本質的に人、特に男の心を見抜き、操る才能がありました。スパローの素質があったのです。
その素質を開花させ、新たな人生を歩むことで彼女が本当に満足したといえるのか考察してみましょう。
真の自由獲得
ドミニカはバレリーナとしても、スパローとしても常に国家の息がかかった監視と抑圧の中で生きてきました。
彼女が真に自由だと感じた瞬間はほとんどなかったのではないでしょうか。
常に誰かからの指示を受けなければならず、いつ信頼のハシゴを外されるかも知れないという恐怖感もあるでしょう。
彼女は真の自由を獲得したかったはずです。
母親のもとで電話を受けるドミニカに対して「自由はないのね」と母親が話す場面は、求めても得られない自由を示唆しています。
アメリカ亡命
やはり彼女の最終的な目的は母親とともにアメリカに亡命し、自由な生活をすることなのではないでしょうか。
ロシア情報局の信頼を獲得し二重スパイとして生きる道を選んだのは、最終的なアメリカ亡命のためのステップだった可能性があります。
しかしながらロシア情報局中枢に入り込めたドミニカをCAIが簡単に手放し、亡命の手引きをするかどうかは疑問です。
ドミニカのことですからナッシュをうまく操って、やがては母親とともにアメリカ亡命を果たすかも知れません。
搭乗口でドミニカを見送ったナッシュ
ロシア情報局に連行されるドミニカを追ってナッシュは空港の搭乗口まで駆けつけます。
振り返ったドミニカはそんなナッシュを意味深な目で見つめるのです。
そこでなぜかナッシュはドミニカを奪取することを断念して、悔しさをにじませます。
ドミニカは目で何を伝えようとしていたのか、またそのようなドミニカをナッシュはどう受け止めたのか見てみましょう。
ドミニカの真意
連行されるロシア情報局で何が待っているのかドミニカには見えていました。
また、ここで抵抗しても助かる見込みが薄いこともわかっていたのです。
ドミニカがナッシュに思いとどまるよう目で合図したのは、彼女がこれまで周到に準備を重ねてきた深い陰謀があったからでした。
ロシア情報局の尋問に耐えることができれば、自分をロシア側の二重スパイとして活用できることを当局側に訴えることができます。
そうすればロシア情報局の信頼を獲得することと、ワーニャを罠にかけることの両方を達成する可能性が開けてくると読んだのです。
ロシア情報局の尋問が凄まじいことをドミニカはわかっていたはずです。それでもそれを乗り切る自信が彼女にはありました。
ナッシュの思い
ナッシュにはこの時点でドミニカに対して既に手駒としてのスパイ以上の感情を持っていました。
彼の本心としては何としてもドミニカを救出したかったのです。
それはドミニカの暗黙の指示で思いとどまらざるを得ませんでした。
既にナッシュはドミニカに操られていたのです。
もちろんナッシュはドミニカの思慮遠望など知るよしもありませんでした。
もしナッシュが強行策に出ていたら
もしナッシュが鈍感でドミニカの暗黙の制止に気づかず強行策に出ていたら事態はどうなっていたのでしょうか。