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映画『HUMAN LOST 人間失格』はかの古典的名作『人間失格』を2019年に解体・再構築した作品です。
この映画の凄い所はSFダークヒーローというジャンルを用いて人間の業を描いている所にあります。
木崎文智監督の旗振りの元、主演を宮野真守と花澤香菜という実力派声優で固めるなど隙がありません。
人間が病死を完全に克服した近未来におけるヒューマニティの変容が凄く的確に描かれております。
主人公が薬物中毒者であるなど、設定も細部に至るまでひねりがあり、想像力が刺激されるでしょう。
そこで本稿ではそんな人間失格ともいうべき主人公・葉藏が世界を救う理由を考察していきます。
また、葉藏が「恥の多い生涯を送ってきた」と言った真意なども併せて読み解いていきましょう。
偉大なる名作『人間失格』
本題の考察に入る前に、まずは偉大なる名作文学『人間失格』について語らねばなりません。
様々な解釈を生み出した『人間失格』ですが、何故現代に至る普遍性を持ち得たのでしょうか?
それは根底に描かれているテーマが「顕在意識と潜在意識の不一致」にあるからです。
主人公・大庭葉蔵は自分と他者が違うことに深い絶望を覚え、孤独を感じた人間でした。
いうまでもなく著者・太宰治の分身であり、彼の天才故の苦しみを体現した存在であります。
それを表に知られないよう道化を演じることで、自分を上手く誤魔化していたのです。
しかし、そんな偽りの人生が上手く行くわけもなく、主人公の人生はどんどん破綻します。
この深いテーマ性こそ複雑なストレス社会を生きる現代人の根深い問題に通底するものがあるのです。
それが本作の近未来SFヒーローアニメというジャンルでどう再現されたのかを見ていきましょう。
世界を救う理由
本作の主人公・大庭葉藏は名前も中身もほとんど原典の生き写しともいえる人でした。
彼は薬物中毒に溺れ、言葉遣いも酷く態度も物凄く粗忽な格好悪い人だったのです。
そんな葉蔵がどうしてこの世界を救うという大それた英雄的行為を成すに至ったのでしょうか?
ここではその理由についてじっくり考察していきます。
美子との邂逅
1番大きな転機となったのはやはり柊美子との出会いではないでしょうか。
といっても、単なるボーイミーツガールのような単純なものではなく、もっと深いものです。
葉蔵にとって美子は自身の潜在意識を体現した存在だったのでしょう。
また、それは美子にとっても同じであり、葉蔵は彼女にとって理想の生き方を体現した存在でした。
お互いに過去を打ち明けたことで、その辺りがより明瞭な対比となったのです。
まず、美子との出会いと交流で大きく変わったことが事実として挙げられます。
美子の信じた未来
その上で決定打となったのは美子が彼に語ってみせた未来ではないでしょうか。
彼女が信じた未来とは人類が自ら再生して自分を取り戻し、他者に貢献する未来です。
それは本作の腐れ切ったディストピアといえる世界観では普通望めないことでしょう。
しかし、美子はそんな障害をものともせずにやってやるという信念がある人です。
その熱に魅せられて葉蔵も段々彼女の信じた未来を実現したくなったと推測されます。
男女の恋愛というありがちな愛を超えたもっと深い人間性への共感があったのです。
それこそが葉蔵をして世界を守ろうと思わしめた最大の要因でありました。
ロマンティストとリアリスト
こうして見比べてみると、葉蔵と美子は実に正反対というか鏡写しの存在だといえます。