レントンとの飲みながらの対話がこれを決定的にしたといえます。
チャンスをつかんだ後の裏切りという意味ではかつてのレントンと同じでしたが、ベロニカとレントンはその動機に決定的に違いがありました。
未来が見えていなかったレントンとは異なり、ベロニカには明確な未来が見えていました。そのための綿密な計画だったのです。
とっくに切り捨てたダイアン
いつまでも昔のままの懲りない男たちと違って、ダイアンはたわいないバカ騒ぎの日々をとっくに切り捨てていました。
この物語の中では選ぶ人生を選んだ女たちと、いつまでも選ばない人生にこだわる男たちが対照的に描かれています。
ダイアンは前者の象徴です。かつて一夜を共にしたレントンともビジネスライクに仕事を進めることが出来るのです。
ただ彼女が別れ際にレントンに対して、ベロニカは若すぎると告げるシーンにはかすかな嫉妬心も垣間見えます。
わずかに光るが見える未来
物語は結末を無理矢理ハッピーエンドに誘導していません。
パンクな生き方をそのまま残しながら退屈でつまらない日常に戻っていく彼らを描き切っています。
そのような中でも未来にわずかな光を見いだしそうなスパッドとレントンがいることがこの作品の救いになっているのかも知れません。
スパッドの未来
一番のダメ男と思われたスパッドが物語の最終盤に重要な役割を果たします。
ネットバンキングが主流の現在において役立たずと思われたスパッドのサイン偽造技術がベロニカの決断を後押しすることになるのです。
さらにそれがスパッドの人生においてこれまでなにもしてやれなかった妻と子に思いもかけないプレゼントを与えることにつながります。
これによってスパッドは自分が生きてもいいと思い始めました。
自らの体験と思いを綴った彼の小説はきっと多くの不安な若者たちの共感を呼び、スパッド自身と彼らを救うことになるでしょう。
このくだりによってこの作品の格調が一気に上がってくるのです。
前を向くレントン
レントンとサイモンはあの頃生きた刹那的な非日常を人生の一つのエピソードとして奉ることに成功したようです。
かといって彼らは物わかりのいい大人として生きることはなさそうです。
自分の部屋に戻ったレントンは、もうかつて好きだったレコードを聴くことにためらうことはありませんでした。
あの頃をあの頃として現実生活と折り合いをつけながら思い致すことが出来るようになったのです。
【T2 トレインスポッティング】のテーマは選択
選ぶことを拒否し続けたかつてのレントンたちは20年経って何者かを選ばなくてはいけないことに気づきました。
彼らはそれぞれ自分なりに選んだ居場所でこれからの日常を生きていくことでしょう。