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映画『his』は恋愛ドラマの今泉力哉監督が放つ同性愛をテーマに描いた作品であり、2020年に公開されました。

キャストは主演の宮沢氷魚と藤原季節を中心に落ち着きのある実力派俳優・女優で固められています。

元々は連続テレビシリーズが原作であり、その13年後の設定で描かれているためにテレビとはキャストが違うのです。

周囲にゲイだと知られ、ずっと肩身の狭い思いをしていた日比野と井川の長らくの恋がテーマとなりました。

本稿では物語中盤で日比野渚が井川迅に対して突然キスした真意をじっくり考察していきましょう。

また、緒方の死が与えた影響や2人の覚悟と同性愛が受け入れられた理由も併せて読み解きます。

普通という名の民意

民意のはかり方: 「世論調査×民主主義」を考える

本作は題材こそLGBTや緒方の死など極めて過激な題材が目立ちますが、テーマはとても普遍的です。

ドラマの核にあるのはシンプルな「普通とは何か?」であり、日本社会独特の「民意」を扱っています。

どの世界でも少数派は弾圧されるものですが、日本社会では同調圧力が強いためその傾向が顕著です。

ゲイである迅と渚だって何も好きで同性愛という趣味嗜好を持つに至ったわけではありません。

しかし、世間の目はそんな2人の価値観すらも許さないのだと最後まで壁として立ち塞がって来ます。

目に見えない世間が作り出す「普通」「常識」というテーマに挑んだ先にあるものが本作の見所です。

突然のキスの真意

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本作を象徴する見せ場の1つが物語前半で渚が突然迅にキスしてしまうシーンです。

果たしてこのキスシーンで作り手が受け手に示す真意は何だったのでしょうか?

お酒の力

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まず考えられるのはお酒の力によって思わず本性が出てしまったということでしょう。

よくお酒に酔うと人が変わるといいますが、これはやや正確さを欠いた表現です。

実際はお酒の力によって普段押さえ込まれている潜在意識が行動として表出しています。

つまり、渚の迅に対する噓偽りのない気持ちがお酒の力で引き出されたことになるのです。

逆にいえば、大人はお酒の力を借りなければ本心を打ち出すことが出来ないのでしょう。

ましてやそれが世間一般に奇異の目で見られる同性愛となれば尚更のことです。

真のヒロインは渚

2つ目に本作における真のヒロインが渚であることを示していたのではないでしょうか。

同性愛というとどちらかが男性らしく、そしてどちらかが女性らしいという関係性になります。

この点で日比野渚はどちらかといえば女性らしい繊細さや欲しさといった部分が目立つでしょう。

渚という男性と女性のどちらに用いても違和感のない名前であることもそれを裏付けています。

ずっと8年もの間迅のことを思っていたことを考えればとても健気です。

行き場のない閉塞感

閉塞感からの脱却―日本宣教神学

そして3つ目に、彼ら2人の行き場のない閉塞感がこの1シーンにしっかり凝縮されています。