このようにユーザーのモチベーションには階層があり、それが時代の変遷とともに変化していきます。

ちなみに、これは他の業界も同じです。例えば音楽業界を例にすると元々は「CDを買う」層が一番下で、その上は「ライブ、フェスに行く、グッズ買う」層という2階層しかありませんでした。

しかし、YouTubeやサブスクリプションサービスが登場したことにより、CDを買うという層の大部分がそちらへ移行し、階層が3層になり、3階層目が厚くなることで2極化が進んでいます。

——動画配信サービスの登場は、映画業界へどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

今井:映画業界では映画配信サービスへの反応が変化しつつあります。

例えば、今までアカデミー賞では映画館で放映された映画だけを対象としていました。

しかし、現在はNetflixのように映画館で放映されない動画配信系映画も対象にするかどうかで意見が割れています。

その転換点となる出来事が、Netflixが制作・配信した『ROMA』のアカデミー賞受賞です。

この作品が第91回アカデミー賞の作品賞をはじめとする10部門にノミネートされ、監督賞など3部門を受賞したのです。

スティーブン・スピルバーグ監督は「ストリーミング作品はテレビ映画であり、オスカー受賞には値しない」という持論を示したことがありますが、彼が審査員を務めるアカデミー賞が賞を贈っていますし、スティーブン・スピルバーグが率いる製作会社アンブリン・パートナーズが、米ストリーミング大手のNetflixとパートナー契約したことは話題になりました。

クリストファー・ノーラン監督も、動画配信に対して否定的でしたが、彼の作品である『TENET』はNetflixで視聴できます。

このように、映画の制作側も動画配信サービスへと歩み寄りはじめています。

さらに、コロナ禍が追い風になり映画館ではなく動画配信サイトで配信されたものをテレビやスマホで視聴することがスタンダードになりつつあります。この動きは今後さらに加速していくだろうと考えています。

 

——動画配信での視聴がスタンダードになることで、映画業界ではどのような変化が起こると考えられるのでしょうか?

今井:動画配信で映画を見るようになると、映画の作り方も変化すると考えています。
動画配信サービスで映画を配信する時代になったことで、映画の最中でのユーザーの離脱率が非常に上がったという話を聞いたことがあります。

これは映画館という視聴環境と動画配信という視聴環境の離脱のハードルの差を表しています。

映画館であれば、お金を払って約2時間席に固定されます。どんなにつまらないシーンが30分あろうと、途中で席を立つのはハードルが高いでしょう。

 

しかし、動画配信サービスで視聴した映画の冒頭30分が説明的で退屈なものであれば、すぐに離脱してしまいます。極端な話30分どころか1分でもテレビのチャンネルを変えるように離脱されることが起きうるでしょう。

離脱のハードルが下がったことで、はじめの1分でユーザーの心を掴まなければ、すぐに離脱されてしまうということが起きるようになっています。

特にサブスクリプションのように定額制であれば1つの映画をみることにコストが発生しないため、スイッチングが早くなります。

そのため、これからの映画はコンテンツの立ち上がりの部分にフォーカスして離脱を防ぐことが重要になるのではないでしょうか。

はじめはつまらないけれど徐々に面白くなっていく映画より、はじめから最後までずっと面白い映画が評価されていくのではないかと感じています。

そして、それによって起きるもう一つの事象がシネマノーツ立ち上げのきっかけとなった、「映画を見終わった後の感想」の必要性です。

 

——シネマノーツの立ち上げのきっかけとなったというと?

今まで以上にライトに多くの映画を見れるようになったことで①見終わった映画の総数が増える②どの映画を見るのかという見る映画を選択するという行為が少なくなるということが起きると思います。

この二つの事象によって、映画を見る前の人よりも映画を見終わった人の数が相対的に増えていき、結果的に「見る前の映画の事前情報」を知るというニーズが、「見終わった後に映画の内容を振り返る、分からない点を確認する」というニーズに移行していくことになるだろうと考えています。

これがシネマノーツの掲げる「見終わった映画の意味や解釈を調べる」というコンセプトを生み出すきっかけとなりました。

動画配信サービスの登場は映画業界にとってデメリット?

——動画配信サービスでユーザーは手軽に見られる一方で、映画業界としてはデメリットがあるということでしょうか?

今井:デメリットではなく、求められるコンテンツが変わり、最適化されていくということです。

例えばマンガでいえば、従来の紙の本では本を開く作業があります。マンガプラットフォームが登場した当初はこの「本を開く」UIを重視していました。

しかし現在最適化されているプラットフォームは、縦スクロールだけでページングがなく、文字もデバイスサイズに合わせて調整されるという最適化が行われています。

マンガというコンテンツ自体は変わらないが、配信方法は紙やスマホに合わせて最適化されているのです。

映画も、今は映画館に特化したコンテンツの形になっています。しかし、今後は配信プラットフォームにあわせてより最適化されていくのではないかと考えています。

『ハリー・ポッター』シリーズというコンテンツ自体は変わらないけれど、映画館の他にスマホでの配信に最適化した縦長の映画ができるかもしれないということです。