偶然裏街道に足を踏み入れたようでありながら、実はそれは必然だったのかもしれません。
妻と娘との確執
劇中では妻や娘との確執が色濃く描かれていました。
伝わらない愛
アールは妻や娘を愛していなかったのでしょうか。そうではなく、アールは深く妻や娘を愛していました。これは劇中の描写から明らかです。
しかしその表し方を知らなかったのでしょう。
もしくは自分がこんなにも大切に思って愛しているのだから、相手にそれは伝わっているはずだと思い込んでいたのかもしれません。
ですが、愛は伝えようとしないと伝わらない時もあります。アールは仕事に夢中になるあまり、家族への愛情表現を怠ったのかもしれません。
それとも自分が世界一のデイリリーを作ることを誇りに思っているように、家族も同じようにそれを誇っていてくれて、自分はそのために力を尽くすことが彼らへの愛情であると思っていた可能性もあります。
デイリリーは1日しか花を咲かせない非常に手間のかかる植物のようです。
仕事に追われて家族の行事に立ち会わなかったり、妻や娘がアールを必要としている時に向き合わなかったのかもしれません。
アールはそれでも家族だからわかっていてくれる、そう思っていたのかもしれませんが、家族はそうではありませんでした。
求めたときにはいつもそばにいない、愛しているのかもわからない。
いつの間にか愛は失せ、家族の絆からアールがはみ出してしまったことに気づいていないのはアールだけだったのではないでしょうか。
ここでも”変われないアール”の姿が浮き彫りになります。
インターネットについていけないように、そして時代の流れで変わるモラルにもついていけないように、家族の心の変化にもついていけない。
アールだけが変わらないままそこにいて、周りはすべて時の流れの中で変わってしまったのです。
”運び屋”をすることによってアールが手に入れたもの
思わぬきっかけから始めた”運び屋”。この仕事はアールに何をもたらしたのでしょうか。
自信と誇り
アールはインターネット化の波に乗り遅れ、すべてを失いました。それまで培ってきた自信や誇りも粉々に打ち砕かれたことでしょう。
そしてもはやデイリリーが作れる環境ではなくなりました。
かつてのように賞賛を受けることもなくなったアールは周囲にもすべてを失ったみじめな老人として見られるようになったはずです。
運び屋の仕事はそんなアールにまだ仕事で役に立てる、お金を自分の力で稼げるという誇りをもたらしました。
自分の居場所
アールの慎重な運転、そして90歳の老人が組織の運び屋だとは普通では考えられません。
そのため、アールは回を重ねるごとに信頼を得て、重宝されるようになります。
それは愛する家族から拒否され、デイリリーの世界からも隔絶されたアールの心の拠り所になったのではないでしょうか。
自分を必要としてくれる場所がある、待っていてくれる人たちがいる。
それは絶望に満たされていたアールの気持ちの在り方を変えたかもしれません。
犯罪だとわかっていても”運び屋”を辞めなかったのはなぜか
大金を稼げるという以外にも、”運び屋”を辞めなかった理由はあるのでしょうか。
居場所を失う恐れ
先にも述べたようにアールは運び屋の仕事をすることで自分の居場所を得ました。
もう何もできない時代に取り残された老人ではありません。