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アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲った「バイス」。
主演クリスチャン・ベイルの体型変化や主要キャストのそっくりさん加減がまず取り沙汰されてしまいがちな作品です。
しかし実は「バイス」は現代アメリカ政治史の闇を描く重要かつ膨大な情報が詰め込まれている映画なのです。
専門的なリテラシーが無いと読み解くのに苦労しがちな内容ですが、そこを監督・脚本のアダム・マッケイは実に上手く仕上げました。
政治を皮肉る風土というのはアメリカには古くから広くあります。
本作では、人気風刺コメディーテレビ番組「サラデー・ナイト・ライブ」(以下SNL)出身のマッケイ監督が得意のコメディー要素や暗喩を上手く使い、分かりやすく楽しい映画にしました。
「アメリカ最強・最悪の副大統領」ともいわれるディック・チェイニーはいかにして出来上がったか?
マッケイ監督はそれをどう描いたか?様々な角度からみていくことにしましょう。
最凶で最強
人の道を踏み外したチェイニー
タイトルの「バイス(Vice)」とは「副○○」という意味と、もう一つ「悪徳」というニュアンスがあります。
「マイアミ・バイス」は後者の意味合いです。大変含蓄のあるタイトルです。
では、チェイニーは一体何をしでかしたというのしょうか。
彼は現在のアメリカが直面する「国民の分断」の発端となったといっても過言ではない報道機関の「フェアネスドクトリン(公正報道原則)の撤廃」に下院議員時代に関わりました。
共和党の広報機関のようになっていくFox Newsの登場の下地を作ったわけです。
Fox Newsを作ったロジャー・エイルズもニクソンのメディア担当補佐官として本作に登場しています。
更に子ブッシュ政権時代の副大統領としてのチェイニーは「一元的執行府理論」という法律の穴を突く方法を考えつきます。
これを使い9.11の後にイラクに戦争を仕掛け、大量破壊兵器の発見も無いまま多くの米兵士とイラク国民を殺してしまい、その混乱からイスラム国を誕生させてしまいました。
その状況は今日まで続いているというわけです。
一方で、チェイニーは世界最大の石油掘削機メーカーであるハリバートン社のCEOを務めるなど、この会社と深く関わりイラク戦争関連で巨万の富を得たとも指摘されています。
父の後を継いで大統領になることだけが目的だった子ブッシュの無能ぶりを見抜き、彼の権限を骨抜きにし、副大統領の権限を大統領と同等のものとする。
法の盲点を突いて強大な権力を手に入れたチェイニーを「人の道を踏み外した」とマッケイは見ています。
妻リンの存在の大きさ
チェイニーを背後で操るパワー
イェール大学を退学になったワイオミングの飲んだくれのダメ人間、ディック・チェイニー。
彼をここまで権力追求の権化に仕立て上げたのは、学生時代の友人で妻となったリンの影響が大きいと描かれています。
頭が良く上昇志向の強いリンは、本来なら自分が政治の世界に進みたかったのです。
しかし、土地柄と時代がそれを許さず、彼女はヘタレ夫のチェイニーの尻を叩いて、時には入れ知恵を。
こうして、リンは夫を下院議員、大統領首席補佐官、国防長官、そして副大統領へと押し上げていきます。
下院議員選挙に立候補したチェイニーが持病の心臓病で選挙運動が出来ないと見るや、リンはチェイニーに代わり演説を引き受けて州内を巡ります。
その見事な演説で大衆の心を掴み、このおかげでチェイニーは当選を果たすのです。