出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B0053C8OZS/?tag=cinema-notes-22
群像劇の傑作としてオスカーの最高賞ともいうべき2004年度アカデミー賞作品賞を獲得したポール・ハギス監督の「クラッシュ」。
「人種の坩堝(るつぼ)」といわれるアメリカならではの作品です。
また9.11の同時多発テロ以降アメリカ国内で深刻になっていった人種間の不寛容とその変化を活写しています。
日本人には肌感覚として理解しづらい内容であり、かつ特定の主人公を定めない群像劇の分かりにくさは付きまとうかもしれません。
しかし、この映画を理解していく事は、現代に生きる世界中の人々にとって大変重要なテーマを提示しているといえます。
そうした本作を分かりやすく紐解きながら、ポール・ハギスの主張を見つめていくことにしましょう。
9.11が無かったら生まれなかったかも
アメリカという国が背負ってしまったもの
以下の映画の背景を理解しておくことは本作鑑賞の上で極めて重要なことでしょう。
人種間の問題は何もトランプの登場から生まれたものではなく、ご存知のようにアメリカは移民が作り上げた国といえます。
白人といっても、英国だけではなくアイリッシュ、イタリア、ドイツ、ロシア、東欧系など多種多様。
そして黒人、更に現在ヒスパニック系が大きな勢力となって来ています。
更に日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンなどのアジア系移民も忘れてはなりません。
まさに全世界の人種の見本市のようであり「人種の坩堝」と称される所以です。
アメリカの歴史は移民たちが発展を支えてきた反面、一方で「アメリカの闇」の歴史をも作り出してしまったのでした。
9.11のインパクト
その大きな転換点になったのが2001年9月11日に起きた同時多発テロ。そしてトランプ大統領の登場でしょう。
この偉大な国は大きな試練に立たされることになるのです。自らが撒いたタネという指摘もあります。
しかし、本作のように人種間の感情の行き違いや先入観バイアスを主題とした映画は、9.11が無かったら出来なかったとも感じられるのです。
ポール・ハギスの狙い
本作は登場人物が多い上に、それぞれのエピソードが結びついているので一回見ただけではなかなか理解しづらい点もあるでしょう。
しかし、じっくり観ていくと群像劇のダイナミズムを味わう事ができるので、是非2度、3度とご覧になることをお勧めします。
ハギス監督は本作について各所のインタビューでこう語っています。
「頭で筋を追わないで心で感じて欲しい作品だ」と。
「ミリオンダラー・ベイビー」でオスカー脚本賞を獲得したハギス監督の作家性の強さを感じさせるコメントではありませんか。
「物語が進んでそれぞれの人間像がゆっくり見え始めた時に、自分の先入観に居心地の悪さを感じて欲しかったんだ。」(ハギス)
「人は皆、他人をあまりにも表面的に判断し、平気で厳しく批判しすぎる。
その一方で自分のことは複雑な人間だと思い込み、様々な愚行を正当化しようとする。」(ハギス)
引用:https://eiga.com/movie/1042/interview/
「無知・無理解と不寛容が引き起こす不条理の輪廻」とでもいうべき登場人物が描き出す世界をみていくことにしましょう。
登場人物たちが表すこと
7組のたった1日の出来事
映画出だしの場面がラストシーンに繋がるという構成で、描かれている時間はほんの1日の出来事に過ぎません。
LAPD 刑事グラハム(ドン・チードル)と恋人リアの車が追突事故を起こします。相手の運転手はアジア系のおばさん。
観ている人は中国人と思うでしょう。しかし彼女は映画の後半で韓国人と分かります。
この映画の登場人物たちの多くはアジア人をみると中国人といいます。
すごい剣幕でリアを「不法入国のメキシコ人!」と決めつけて悪態を並べますが、リアは実はヒスパニックなのです。
いきなり人を見た目で判断して悪態をつくという場面。