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映画はこうして始まります。
本作のテーマは…
「人を見かけや身につけているもの、聞いている音楽で判断する」というバイアスは本作を貫くテーマのひとつ。
まずハギスが提示しているのは、登場人物たちの「無理解・無知・誤解・偏見・差別・思い込み」という本作の第一のテーマです。
すべての物事の背景となっているのは、そのテーマから導き出される「すべてに対する不寛容」といえるのでしょう。
前半ではさまざまな人種や職業が巧妙に配置され、問題のテーゼを観客に投げつけてきます。
グラハム刑事の弟に対する人種差別を内包した顛末が物語を大きく纏めていることに気がつくでしょう。
映画を構成する大きなループの根幹には特に大きく「人種差別」「民族の偏見」があぶり出されるような仕組みになっています。
7組の登場人物とトラブルを紹介しつつ、人種間の憎悪や偏見が如何に無理解や誤解、先入観で形成されているかを提示するのが前半の物語なのです。
少しの救いとプロット転換
少しの救い
映画の中盤では、登場人物たちの人間的なところが少しずつ描かれていきます。
登場人物たちが「無理解・無知・誤解・偏見・差別・思い込み」を受ける不条理の事件を前半に置いたハギス。
彼は中盤に7組の人々に客観的視点を与えます。
人種差別ライアンの父親思い、そのライアンとコンビを組むトムのハラスメントに対する葛藤、彼はキャメロンの救出という行動に出るのです。
さらにダニエルの優しいパパぶり（天使のマントの登場）、カージャックする若い黒人二人組の若い方（刑事の弟）が心優しい男であることなど。
これらは次第に変化していく登場人物たちの先触れとして提示されていると捉えていいでしょう。
登場人物たちの心の変化
そしていよいよ登場人物たちに大きな心境の変化が生まれていく過程が描かれていきます。
このシークエンスでは4つの大きな象徴的物語が描かれていくことになるのです。
まず、テレビプロデューサーの妻が起こした交通事故でクルマが横転するシーン。
漏れたガソリンが引火し炎に包まれ始めたクルマから運転していた妻を救い出すライアン。
（ポスターに使われるカットです）
引用:クラッシュ/配給会社:ムービーアイ・エンタテインメント
セクハラを受けた妻と加害者であるライアンの「赦し」の瞬間を捉えた本作を象徴するシークエンス。
特に転倒した車に閉じ込められた妻の微妙な心の変化が、迫る時間とのせめぎあいの中で上手く表現されています。
もう一つは検事の妻ジーン（サンドラ・ブロック）が二階から落ちてケガをしたシーン。
その時、ジーンを助けたのは、いつも偏見の目で見てきつく当たっていたメイドだったのです。
ジーンは彼女をハグします。
引用:クラッシュ/配給会社:ムービーアイ・エンタテインメント
典型的エスタブリッシュメントで、心に人種的偏見という「固まり」を持っていたジーン。
彼女の心の、その「固まり」を溶かしたのがメイドだったわけです。
若干都合のいい状況が連続しますが、ここも出演者たちの偏見が溶解していく重要なシーンなのです。
さらにカージャックを繰り返す若い黒人が盗んだバンに積まれていたのが多数のアジア人だったシーン。
アジア人を売ればカネになるのに、逆にカネを与えて彼らを逃がします。
引用:クラッシュ/配給会社:ムービーアイ・エンタテインメント
この3番目のシークエンスにグラハム刑事の弟とコンビを組んでいた黒人の若者が登場します。
人種と状況の異なる女性を二人の後に黒人の若い男性を持ってきたハギスの思惑に感心するところです。
この若い黒人男性は映画冒頭で「追い込まれてしまって境遇」から白人への恨みを口にします。
逃げてきたアジア人らを解放する光景に、彼の心の深いところにある「理解」や「赦し」が見られるのです。
極め付きは逆恨みして工事業者ダニエルの家に銃を持ってやってきたファハドのシーン。
撃たれる父を救おうと飛び出る幼い娘。「天使のマント」の登場です。
引用:クラッシュ/配給会社:ムービーアイ・エンタテインメント
切羽詰まった緊張感がついには解放されるこのシークエンスは、起承転結の「結」に当たるのではないでしょうか。
一方的に追い詰められたと勘違いするファハドと一方的な偏見を浴びているダニエル。
ハギスはここで命に関わる展開を設定しました。そして非常に物語性の濃い結末でその展開に決着を付けたのです。
