これは珠世の気持ちを繋ぎ留めておくためです。
珠世は見た目で佐清を好きになった訳ではありません。
しかし愛情を受けたことのない松子は、本当の愛を知らないのです。
佐清の見た目が変わったことで、珠世の愛は消えると心配したのでしょう。
しかし愛情を沢山受けて育った珠世は、人を愛するという本当の意味を知っていたのです。
松子が本当の愛を知っていれば、佐清に見せた珠世の態度から佐清が偽物であると気づけたかのしれません。
松子は父親佐兵衛に愛されたかった
松子は父親である佐兵衛に翻弄された女性のひとりです。
松子の狂気の下に隠された心はどんなものだったのでしょう。
珠世への殺意や菊子への恨み
松子は自分が受けられなかった父親の愛、その愛を一身に受けた珠世へ積もり積もった恨みが爆発した時もありました。
いいかえれば嫉妬心です。
菊子を屋敷から追い出したのも、きっと同じ気持ちだったのでしょう。
なぜ菊子が父親佐兵衛の愛を受けることが出来るのか、その嫉妬心は憎しみとなって菊子に浴びせられたのです。
松子は父に愛される珠世や菊子が羨ましくてしょうがなかったのではないでしょうか。
父の怨念からの解放
佐清、珠世さんを父の怨念から解いておやり
引用:犬神家の一族/配給会社:東宝
松子は死の間際に上記のような母親らしい言葉を残しています。
父の怨念とは、松子に宿った狂気であり愛情の偏りがうんだ怨念ではないでしょうか。
死の間際に松子はこの怨念から解放されたのです。
そして彼女は自分がいくら求めても得られなかった愛情を息子に注ぎ、最後まで息子が愛されることを望んだのです。
更に自分が捕らわれていた「父の怨念」を自分の代で終わらせようとしたのでしょう。
愛されていたとはいえ、珠世もまた祖父である佐兵衛に振り回させたひとりなのです。
殺人者である松子は、悲劇のヒロインといってもいいのではないでしょうか。
愛情がテーマの金田一作品
連続殺人というミステリーの影には、愛情不足というキーワードが隠されていました。
犬神家を舞台にした、複雑な人間関係や欲望や野望は観る者を十分に満足させてくれます。
全ての謎を解き明かしてから、作品を観返すと新たな発見が見つかるかもしれません。
何度観てもその巧妙な構成に驚かされる作品ではないでしょうか。