追いかけなかったのは、人生のひとつの区切りとして明里を見送ったことを表現しているようです。
貴樹にとって過去への区切りがついた瞬間だったともいえます。
明里を追いかけていたら?
もしも、ラストシーンで明里を追いかけていたら、物語の結末は変わっていたのでしょうか。
一度だけの会話
もしも貴樹が明里を追いかけていたら、明里は何の屈託もなく自分の結婚話をしたのではないでしょうか。
貴樹は複雑な思いで会話を交わしたことでしょう。
もし貴樹が追いかけていても二人の時間はあっという間に過ぎ、その後も思い出となって積み重なっていくのです。
結ばれることはない
貴樹は第三話中に下記のようなセリフを告げています。
かつてあれほどまでに真剣で切実だった想いが、綺麗に失われていることに僕は気づき会社を辞めた。
引用:秒速5センチメートル/配給会社:コミックス・ウェーブ
28歳になってやっと明里への想いが消えていたことに気がついたのです。
このセリフを聞くと、明里を追わなかったのも気持ちが冷めていたからと考察出来ます。
そしてもし追いかけていても、お互いを愛するという情熱はもう消えているのではないでしょうか。
時系列の繋がり
本作は第一話から第三話という構成で作られており、ひとつひとつが「終」という形で結ばれています。
コスモナウトの冒頭
第二話の冒頭で登場したシーンは、現実ではありません。
貴樹の心の中に存在する明里であり、彼女が振り返らないのはもう気持ちが繋がっていないことを示しています。
第二話での貴樹と明里の関係
二話目に明里の存在は描かれていません。
しかし貴樹の行動に明里の影が見え隠れしていました。
遠野くんは時々メールをうっていて…
引用:秒速5センチメートル/配給会社:コミックス・ウェーブ
花苗のセリフにある「遠野くんのメール」は、出す宛てのない遠く離れた明里へのメールでしょう。
携帯があるなら、明里と連絡を取ろうとすれば取れるということです。
しかし貴樹はメールを送信していません、この行動はラストシーンに続くものです。
この頃から貴樹の中で明里への恋は消えていたのでしょう。
「明里に恋をしている自分の状況」を維持したかっただけなのかもしれません。
第一話から直接つながっているようですが、ほんの少し時間の隙間がありその間に明里と貴樹の関係に距離が出来ているのではないでしょうか。
二話目で描かれている貴樹の表情は、いつも寂しげで明里との関係は変わってしまったと考察できます。
出来ることを何度もやっているだけ、余裕ないんだ
引用:秒速5センチメートル/配給会社:コミックス・ウェーブ
上記のセリフが物語るのは、貴樹が明里への思いだけを大切に必死に生きていたと解釈出来ます。
主人公が入れ替わる巧妙さ
時系列は複雑に交差しているわけではありませんが、コスモナウトでは主人公が入れ替わり第三者的な立場から貴樹を観るという構成です。
観客も観る角度を変えられることで、客観的に貴樹を観ることになります。
しかも、それはちょうど明里への思いが揺らいでいる時期の貴樹で、彼の気持ちが見えにくい時期と重なっています。
故にラストでは貴樹の気持ちが理解できないという、結末をむかえるのです。
おそらくこの構成は新海監督の意図するところであり、この映画の面白い点でもあります。